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怒りの値段(上)

   2015年11月20日  

皆さんは、作家がいかにして大ヒットを出せるのか、ご存知だろうか?

この物語は、三文作家である下葉一樹(したば・かずき)と大ベストセラー作家である売湖一世(うれこ・いっせい)という対照的な二人を巡るお話である。

ある日、下葉は大学時代のゼミ仲間であった売湖の姿を動画サイトで発見した。
売湖によると、作家が売れるコツは、「怒り」を売ることだという。
下葉は、にわかに賛同しかねるのだが……。

 

 問題:いかにして、作家は大ヒットを出せるのか?

俺は頭を抱えて、ベッドの中で寝転げていた。
原稿が上がらない。
〆切の時刻は刻一刻と近づき、いよいよ頭が真っ白だ。

そう、俺の仕事は作家兼ライター。
下葉一樹(したば・かずき)という三文の文筆家さ。

で、俺は瀕死の力でパソコンを開き、ネットへ接続する。
そして、常連の動画サイトへアクセスし、本日流行りの動画をチェック。
(この時点で、もはや俺は仕事なんてさっぱり忘れているのだ……)

おや? これは……!?
俺の知り合いが出ている!
懐かしいな、と思いつつ、ついつい動画に見入ってしまう。
動画のタイトルも非常に魅惑的だ。

『いかにして、作家は大ヒットを出せるのか?』

実にアレな内容なので、ウププと笑ってしまいたい衝動をこらえて、VTRスタート!!

***

いかにも野暮そうな中年のレポーター「本日は、本が売れて、売れて、売れまくって、おかしいぐらい売れて仕方がない売湖一世(うれこ・いっせい)先生にスタジオへお越し頂きましたー!!」

いかにも売れて仕方がない成金ルックスの作家「あはは、動画サイトの前のみんなー、元気ー!? 僕が売湖一世だよー! えー? 僕のことは既に知ってるってー? そりゃそうだよね、僕は大ベストセラー作家だからね、うはは!」

レポーター「いやいや、先生のご活躍ぶりは既に周知の事実ですよ! ライトノベル『半分以上の満月が昇る空』は全10巻で累計1,000万部突破! ブログエッセイをまとめた『超速度で1000万稼ぐブロガーの秘儀』は発売したばかりなのに500万部は軽く突破とのこと! この分だと、今年か来年には、『なっ、おおきいな!』賞を受賞も確実と言われている快進撃!」

作家「あはは、そんなこともあったかなー!? そうだよね、僕が本を出すと一瞬でベストセラーになるのは今や都市伝説だよねー! 賞もじゃんじゃかと、たくさんもらっているし、リッチだよー! おかげで豪邸も建ったしねー!」

レポーター「いよ、大天才! さて、本日、我々取材班は、先生にお伺いしたいことがありますが、さっそくよろしいでしょうか?」

作家「おう、どっからでも行ってみよー! 金と人気になる限り、何でも答えるよー!」

レポーター「ずばり、大ヒットのコツは!? いやね、この動画を見ている人たちはね、きっと先生みたいに大成功する作家になりたいと願っていると思うんですよ。そこで、先生に作家としての成功の秘訣を、ご指導ご鞭撻のほど頂けないかと……!?」

作家「大ヒットのコツ? なんだあ、君たちはそんなこともわからないのかー! バカだねー、あはは! いいよ、教えてあげるー! 作家ビジネスで成功したかったらね、『怒り』を売ることなんだ。たったこれだけ。これだけやれば超速で1,000万は軽いんじゃない?」

レポーター「はい、無料動画はここまでです! 視聴者の皆様、売湖先生の大ヒットのコツの続きを聴きたければ、今なら、たったの10万円で、視聴継続のアクセス・キーを配布します! わずか10万円であなたの人生が劇的に変わる! さあ、価値ある人生への投資に、ぜひ10万円を以下の講座まで振り込みましょう! 振り込み情報が確認でき次第、あなたのメールアドレスへアクセス・キーを送ります! さあ、人生の大成功までわずか10万で登り詰めよう!!」

作家「視聴者のみんなー、ばいばーい! 続きは10万払ったあとの講座でまた会おうねー!!」

***

 あはは、なんだよ、この動画!?
久しぶりに大学時代のゼミ仲間の姿を動画サイトで発見したかと思えば……。
売湖の奴、情報商材なんて売っていやがるのか?
まあ、それはそうと、あいつ、本当に儲けているよな、最近。
動画の内容はともかく、宣伝されていた本の売れ行きは事実だし。

しかし、どうして、社会人になって、文筆家になって、こうも俺とあいつは差が出てしまったのだろう……?

 

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