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SF・ファンタジー・ホラー

月うさぎ/第4夜

   

第4夜

“月うさぎ、決まりごとを破る”

 やんわりと膨らんだ朧月夜、月うさぎは偏屈なおじいさんと一緒に古い記憶を旅します。患った病で消えぬよう、この記憶だけは守って欲しい。しかし、それは決まりごとに反するお願いでした。

 大人のための絵のない絵本、少し不思議な癒し系ファンタジー。

 

第4夜

“月うさぎ、決まりごとを破る”

 やんわりと膨らんだ朧月が、真っ暗な夜空に浮かんでいました。少しでも強い風が吹いたなら、そのまま吹き消えてしまいそうな、ぼんやりとしたお月様です。

 そのおぼろげな月明かりの中、一匹の小さな影が、開け放たれた窓へちょこちょことよじ登っていました。

 ぴーんと長い自慢の耳に、ふわふわの白い毛並み。背中には、身体の半分ほどもある銀色の懐中時計を背負っています。

 月明かりに映える赤いビー玉のような瞳が見えたところで、さあ、もうお分かりでしょうか。

 深夜に大きなお屋敷に忍び込む真っ最中ですが、決して泥棒ではありません。もちろん、うさぎのぬいぐるみでもありません。そう、彼はこう見えて、新米ながら立派な〝月うさぎ〟なのです。

 白塗りの外壁をやっとのことで登り終え、目指していた一階の窓へ辿り着いた月うさぎは、その広い窓枠にぺたんと座り込みました。

 それから、念のため今来た庭の方をこそこそと伺います。凶暴な黒い影は、今はこちらに尾っぽを見せて眠っています。月うさぎはほっと胸を撫で下ろしました。

 こんなに怪しい登場になってしまったのには、実は、のっぴきならない事情がありました。

 遡ることほんの一時間前、いつものようにふわふわと夜空を飛んで現れた月うさぎは、舞い降りたこの庭で、まるで狼のような番犬たちに見つかってしまったのです。

 あんな鋭い牙で噛み付かれたなら、小さな月うさぎなどひとたまりもありません。銀時計の力で対抗することも考えましたが、番犬たちは俊敏です。

 白い耳に噛み付こうと追いかける黒い影に、のんびり屋の月うさぎは、銀時計を引きずって軒下に逃げ込むのが精一杯でした。

 凶暴な番犬たちは、空中をふわふわと飛行する白い物体に興味を持ったのでしょう。安易に空を飛ぶのは大変危険です。

 仕方なく月うさぎは、こうしてこそこそと壁をよじ登ってきたのでした。

 

-SF・ファンタジー・ホラー


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