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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

44口径より、愛を込めて episode24

   

 それは、計画された犯罪か。
 病院で目を覚ました魔夜は、現実の“嘘”を知る。

 本格ミステリー『44口径より、愛を込めて』

 

 私は、納得するしかなかった。麻薬対策推進本部は最悪の事態を想定し、私達二人を“保護”と言う名の鎖で繋ぎ“夫婦”と言う名の監獄に閉じ込めた。
「事態は、一変しました。ですから、俺が話せる事を話します」
 陽太君は、ひと呼吸置いてから、話を続けた。
「単刀直入に言うと、二人は事件について、思い出す必要はなかったんです。今までお二人にしてきた事は、PTSD治療及び事件に関する記憶の消去……でした。ですが、二人共事件のショックが大きすぎて、事件どころか必要な記憶まで封印してしまっていた。そこで、事件以外の記憶を思い出して貰おうと二人に関係している土地を選び、そこに住んで貰う事になりました。同時に、二人が同じ場所で一見無防備に見える体勢であれば、犯人の様子を掴み易いとも考えたんです。勿論、反対意見も出ました。危険ではないのか、と。ですが、ケンさんが自分の辞表を条件にこの案を押し通したんです」
「ところが、想定外の出来事、玲奈さんが現れた」
 陽太君は、首を左右に振った。
「遅かれ早かれ知り合いに会うだろうという、予想はしていました。その都度、説明すればいい。それが元で、記憶が蘇るならと…甘い考えでした」
 出会ったのが玲奈さんでなかったら、事態は変わっていたのかもしれない。
「思い出しても忘れてしまう理由も関係してる? 大雅が言ったの。また忘れてしまうって。確かに、少し前まで当たり前だった事を覚えていなかった」
「それは、恐らく薬の影響でしょう。二人に投与していた薬はアモバルビタールではなく、プロプラノロールと言って、脂溶性の脳内に入りやすい性質を持っています。通常は高血圧や心筋梗塞等の治療に使われるのですが、研究結果として投与後、繰り返し思い出すことで、その記憶を忘却する効果もあると報告されています。大雅さんは、プロプラノロールがあまり体質に合っていなかったようですから、その影響だと思われます」
「その事を、松野さんは知っていたの?」
「婦長は、知らない筈です。この件に関しては、会社含めケンさんと俺、日向野先生しか知り得ない極秘内容ですから」
 そこまで言うと、陽太君は私の方に向き直り、深く頭を下げた。
「……今まで、騙していて…すいません。騙しきれなくて、すいません」
 声が、震えていた。
「俺が、力不足なばっかりに。力が、及ばないばかりに。結局あれから血眼になって捜査していますが、狙撃犯についても今回の事にしても、犯人の目星くらいしか解らず、証拠も掴めない状況です。ですが、安心しろなんて言える立場じゃありませんが、俺、必ず解決しますから!! 約束します!」
 ケンさんや陽太君が頻繁に私達の元に来ていたのは警護の為、聴取の本来の目的は記憶の確認。事件の記憶を少しでもほのめかすような情報があれば、薬を投与し暴露療法にて忘却を促す。大方、そんなところだろう。今更確認する必要も感じられない。
 私は、陽太君を見上げて、視線を伏せた。
「私は、何故倒れたの?」
 もうこの話は辞めようと言う代わりに、私は別の話題を切り出した。
「現場検証の結果、塩素系漂白剤と塩酸系洗剤の混ぜ合わせによる塩素ガス中毒です。焼き破りでリビングの窓を開け、窓から混ぜ合わせた洗剤を流し込んだようです。家庭用洗剤は化学反応で泡を発生し、ガスを閉じ込めます。徐々に泡が消えてくると塩素ガスが飛散し始める為、多少の時間差を要します。恐らく犯人はその時間差を利用し、お二人が完全に寝静まったところで塩素ガス中毒に陥れようとした」
「焼き破り?」
「空き巣が使う、ガラス破りの一つです。窓ガラスの一部に加熱してから冷却すると、その部分が割れます。そこから細い棒の様な物を突っ込んで、鍵を開けるんです。多少時間はかかりますが、大した音は出ない。それに、道具によっては持ち歩いても怪しまれない」
 私は、溜息を吐いた。私にはこれがどうしても、犯人が私達を殺害する為だけに仕組んだ計画だとは思えなかった。
「私達を殺す事が目的なら、今までだってチャンスはあったはず。何故、このタイミングで?」
 参りました、と言わんばかりに彼は続ける。
「……察しがいいですね…魔夜さんの彼氏になったら、浮気は絶対出来ませんね。魔夜さんが救急車で運ばれ、大雅さんが家を出た直後、警察が到着するまでの僅かな時間に、部屋中荒らされました。けれど、盗まれた物は無し。何が目的だったのでしょう。何かを探している、と言う感じでした」
「…………」
 気味が、悪い。
「ですから、退院したら事件解決まで別の場所に住んで頂く事になります。一定の期間でまた別の場所に移って貰う事になりますが、お二人の安全確保の為、ご了承ください」
 私は、頷いた。
「陽太君、ありがとう。少し疲れたから、私も寝るよ。陽太君も、無理しないでね」

 

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