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死神の鏡身 十二話

   

そして迎えるお祭り当日、あかるい雰囲気とは裏腹に、シャオの胸の内は穏やかではなかった。

 

 漆黒の空に、一つ光が放たれた。その光は尾を引いて真っ直ぐ伸び、そして大きな花火をさかせる。
 それを合図に天蓋の透明度を一気に最大へ。普段は隠れてみることができなかった星や月が煌いているのがはっきり見えた。
 会場一面から歓声が上がる。
 祭りが始まった合図だった。
 やがて固唾をのんでそれを見守っていた人たちは時が動き出したように流れ出す。沈黙が去り喧騒が戻ってくる。
 そしてシャオの目の前には一面人の波が流れていた。と言っても人口密度はさほどでもなく、シャオが立ち止まって祭り会場を眺めていても、みんな優しくよけてくれるのだった。
 それくらいのゆとりと余裕が会場全体にあふれていた。
 シャオは焦点を遠くへずらす。出店の数々を注視した。
 金魚すくい、綿あめ。窮境に透き通った飴玉を糸で吊るして売る店もあれば、酒を売る店もある。
 そこを通る人々は、居住区で纏っていた水をはじく材質のスーツではなく、浴衣や甚平を身に纏っている。
 これが祭りの作法だと言わんばかりに、シャオも風通しのいい、和装に身を包んでいた。
 祭り会場はきらびやかだった、淡いオレンジ色の光に照らされた。色とりどりに染まる世界、その狭間をシャオはするすると通り抜けていく。
 人々の嬌声、熱気を含んだ空気、そして甘いやらしょっぱいやら、いろんな味を含んだ香りがシャオの目と鼻を引く。
 珍しくシャオは自分の胸が高鳴っているのを感じていた。この気持ちだけは少年の時から変わらない。
 しかし心境とは裏腹にシャオの顔は晴れない、困りきった表情で頭をかき、あたりを見渡した。
「待ち合わせ、どこにするか、話すの忘れてたよ」
 そうシャオは一人ボッチの雰囲気を漂わせながら、迷子の子猫のようにあちらこちらをふらふらした。長い長い祭り会場を何周もしたころ。
 やっと、待ち望んでいた声が聞こえた。
「シャオ!」
 その声にはじかれ、立ち止まると、遠くからシャオを目指して誰かが歩み寄ってきていた。
 アキラだった。しかし普段の簡素な姿とはまた違う衣装を身にまとっている。
 振袖は輝くような純白、袴は燃え立つような赤、普段の衣装とは使われている材質が違うのだろう、光を発しているかのような眩さがあった。
 そしてさりげない装飾も手が込んでいる。
 髪飾りも普段のように呪符のみではなく、金色の花があしらわれたかんざしが刺されている。
 そして口に紅をさし、まるで一人で勝手に大人になってしまったかのように様変わりしたアキラにシャオは思わず見とれてしまう。
「全く、こんなところで油を売っていたんですか。早く行きましょう、時間がない」
 そうアキラはシャオの袖を引いてどこかへ連れて行こうとする。
 しかしシャオはそれに抵抗するように動かない。
「どうしました? シャオ」
 その時シャオはやっと我に返る。

 

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