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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

44口径より、愛を込めて episode26

   

 陽太が後輩である警察官の塚田を連れて現れた。事態は、それほどに重かった。そして、事件に関わろうとした塚田にも不幸が訪れる。

 本格ミステリー『44口径より愛を込めて』

 

「お帰りはいつですか?」
 未だパジャマ姿の私を見て、先生は問うた。
「夕方くらいって聞いてます。それまで、ゆっくりしようと思って」
「そうですか。先日、望月さんから、説明を受けました。魔夜ちゃんにも、説明すると聞きましたが、望月さんからはどの程度聞いていますか?」
 そう、私達が事件に巻き込まれてからの主治医は日向野先生だけだった。急遽転院すること、主治医を変わることも含めて、話す必要があると考えたんだろう。
「薬の事、治療の事、転院の事、転居の事…ですね」
 日向野先生は、真剣な表情で相槌を打つと、今度は気遣わしげな表情で口を開いた。
「とても心配しています。なんせ、事件後ずっと私がお二人の経過を診てきましたから。何かありましたら、遠慮なく連絡くださいな。これは医者としてだけでなく、個人的な気持ちでもあります。魔夜ちゃん、大雅君が無事社会復帰するまで、いいえ、社会復帰してからも、お二人の力になれればと考えています」
 私は熱くなる目頭を堪えて、大きく頷いた。
「では、もう主治医ではありませんが、また様子を見に寄りますよ。次の住居は、望月さんに聞くとします」
 日向野先生が立ち上がった。
「先生! 大雅の、大雅へのプロプラノロールの投与は、続けられるんでしょうか?」
 私の口を突いて出た言葉は、ずっと抱えていた不安だった。
「それは、大雅君の意思に従う処置になると思います」
 ではまた、と先生は病室を後にした。
 私は、大きく深呼吸した。まだ9時前だと言うのに、入れ違うように大雅が現れた。
「おはよう、魔夜。まだ着替えてないの?」
 この時、彼の声に反応出来るまで、多少の時間を要した様に思う。
「まだ調子悪いなら、もう少し入院する?」
 私は、思わず大雅の腰に抱きついていた。ベルトの硬い感触が心地悪かったけど、彼の匂いや温もりは心地良かった。
「……大丈夫。私は、貴方が心配なだけ」
 聞こえないくらい小さな声で、そう呟いた。
「……無理するなよ」
 彼の声に、抱きついたまま頷いた。
「ねぇ、陽太君からどこまでの話聞いてる? 治療の事、薬の事」
 私は大雅の身体から引き離すように自らを起こした。それを大雅が支えるようにして、彼は質問に答える。
「今までの治療はケンさんの計画で、思い出す為のものではなく社会復帰に向けたものだった。薬はアモバルビタールではなく、プロプラノロールだったってとこかな」
 日向野先生の言葉を思い出す。
「ねぇ、大雅。薬を使うのは辞めて」
「さっき、日向野先生を見かけたんだ。挨拶だけしたんだけど、先生から何か聞いたの?」
 不安げに問いかける大雅に、私は言葉を返した。
「大雅が、薬を使うのが嫌なの」
 彼は、少し困惑したように頭を掻いた。
「魔夜が、そこまで言うなら……」
「約束よ!」
 彼は、はいはいと窓に近付いた。
「カーテン閉めて出ててやるから、さっさと着替えて準備しろ」
 私は軽く返事をすると、ベッドを降りて退院準備を始める事にした。
 午後三時頃になると、陽太君が病室に現れ、続いて初めて見る顔が一緒に付いてきた。
「こんにちは、魔夜さん。お迎えに上がりましたよ」
 陽太君が明るく言うと、隣の男性が続いて挨拶した。陽太君より年上に見えるが、そもそも陽太君が童顔なので(多分)何とも言えない。兎に角、若いことだけは解る。
「初めまして、藤代さん。自分は、警部補の塚田健太郎(つかだけんたろう)と申します。望田先輩とは大学時代の後輩で、卒業後、自分は警官の道を選びました」
 後輩だった。

 

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