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迷い人に孫の手を3<5>

   

 日常は、ちょっとした事で変化する。突如起きた研修室での火事騒ぎ。右往左往する新人は一つとなり、あとは逃げるだけだった。

 なのに、彼は言ったのだ。

 消そうと、さらりと言ったのだ。

 迷い人に孫の手を3。第五話と相成ります。

 彼と、彼の周囲が織り成す物語。どうぞご堪能下さいませ。

○抜粋○

「はぁあ!?」

 全員が驚いた顔をした。清水が声を上げた以外は、誰も騒がなかった。それは柳瀬の冷静な声のせいか、あるいは驚き過ぎたからかもしれない。ただこいつの冷静さが、みんなを落ちつかせた。

「正気か!? 俺らがする必要あるのかよ!」
「消火器はこの部屋に一つある。階段にもあったはずだけど、これだけの煙じゃたぶん足りない。通路の端々で消火器を確保しながら進む」

 柳瀬が言い、全員が息を呑む。さすがのみんなも、柳瀬の言葉を理解できずに不安の面持ちを浮かばせていた。

○○○

 

 
「はぁあ!?」

 全員が驚いた顔をした。清水が声を上げた以外は、誰も騒がなかった。それは柳瀬の冷静な声のせいか、あるいは驚き過ぎたからかもしれない。ただこいつの冷静さが、みんなを落ちつかせた。

「正気か!? 俺らがする必要あるのかよ!」
「消火器はこの部屋に一つある。階段にもあったはずだけど、これだけの煙じゃたぶん足りない。通路の端々で消火器を確保しながら進む」

 柳瀬が言い、全員が息を呑む。さすがのみんなも、柳瀬の言葉を理解できずに不安の面持ちを浮かばせていた。

「飯島、この消火器を持って避難できる? 火元には僕が行く。でも、移動の間だけ頼みたい」
「任せろ。余裕だ」
「階段の所の確保は俺がやる。他のはどうする?」

 鳥取も頷いている。筋肉馬鹿達が、それは自分たちの仕事だと理解しているのだ。半分ほどはやる気だった。でも半分の、特に女子たちが怯えていた。

「俺、消火器の位置覚えています! 昔家が火事になったことがありまして、そういうの気にするようにしていたんです!」
「森、こっち来い!」

 山倉が森を呼び、鳥取とホワイトボードに書きこんでいる。成功率が上がっている。明らかに、消せる可能性が出てきた。ただ、正直逃げた方がいいと思っている。全員でないと、こんなの消せるわけがない。だから、

「無理だろ、でも」

 俺はそう呟いた。柳瀬の前で、俺は諦めの言葉を吐いた。

「今から消防を待っていたら間に合わない。どう思う? 濱根。僕らには消せないと思うか?」

 そんな俺に、柳瀬は言った。全員がお互いの顔を見て、逃げたい、消さなきゃで仲間割れをしそうな勢いだった。言い争っちゃだめだ。ここは、何としても全員が、同じ道を進まなきゃいけない。

 柳瀬の顔を見る。
 この男の眼差しを見る。畜生、ダメだ。どう考えても、こいつの指示で動いたら何とかなると思ってしまう。

「っくそっ、いけるって、思っちまったじゃねぇかっ! くっそ、やるっきゃねえだろうが!」
「うん。みんなを説得して。お願い」
「おまっ、っちくしょう」

 柳瀬は俺に無茶苦茶な事を言いやがった。ド畜生。何でお前が言わない。そう言おうとした。でもこいつは一度言って、みんなに不安がられた。たぶん、納得させられる自信は、ないのだ。

 時間がない。だから、逃げる為の、火を消すために動こうとしているのだ。

 

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