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SF・ファンタジー・ホラー

RAT <三十八>

   

 金丸が倒れた。時間が止まったように感じた。
 廣瀬が言っていた〝プレゼント〟とは一体?

 

 
 倒れた金丸の胸からは血が滴っていた。防弾ベストに同じ箇所を三発撃って貫通させたのだ。
 制圧班は一斉に廣瀬に弾丸のシャワーを浴びせた。蜂の巣になった廣瀬は見たこともない楽しげな表情で死んでいた。
「金丸!」
 山根は急いで金丸の元へと駆け寄ると防弾ベストを脱がせた。
 胸部からの出血が止まらない。俺はすかさず無線で支援班を呼んだ。
 金丸は山根に抱きかかえられ、山根は必死に名を呼んでいた。
「あぁ、やま…ねさん。俺、やり遂げましたかね? 男になれましたかね?」
「あぁ、お前は十分やった。直ぐに支援班がくる。これで胸を押さえろ。少しでも出血を抑えるんだ。お前はやる奴だと思ってたよ。良くやった。だからもう喋るな」
「斎賀さん。俺は正義感のある刑事になれましたかね……」
「そうですよ! 金丸さんは立派な刑事です。正義感のある優しいお巡りさんです」
「あ…ああぁ……よかったっ……」
「金丸! 逝くな! 俺よりも先に逝くんじゃない。そんな親不孝ものなのかお前は? 耐えろ! 隆宏! 生きると信じろ」
 山根の瞳は涙で覆い尽くされていた。金丸の全身の力を山根が体で受け止めると、その涙は金丸の頬を切なく伝った。山根はその太い拳を天に掲げたが、行く宛の無い怒りと悲しみとやるせなさが、その拳を地面へと叩きつけた。ドスッと乾いたような、湿ったような。土を叩く振動が伝わってきた。
「山根さん……」
「死んだ。隆宏が死んだ……」
 虚ろな目で俺をただ見ている。瞳孔が開いて視点が定まっていない。
「金丸は……隆宏は、前妻との子なんだ。こいつは俺が父親だって事は知らない。ただ、親らしい事一つもしてやれなかった。こいつが刑事になったって聞いた時は驚いた。親の血ってのは怖いもんだ。そして俺の部所に配属されるなんてお笑い種だ。だから、俺は金丸のデカイ態度を注意したりしなかった。自分で自分の決めた道を歩んで欲しかった。私は今回の作戦には反対でした。でも隆宏がやるって決めたんなら応援してやりたかった。その結果これか……俺は出世を捨て、隆宏と一緒にいる事を選んだ。周りの奴らはとっくに警視クラスだ。なのに……なのに……クッソー!」
 山根はもう一度地面を殴った。山根が背負っていた見えない荷物の中身がこれだったのか。山根が金丸を自分の子だと初めから言ってくれていれば、俺は金丸を追い込んだりはしなかった。俺はそんな自分が許せなかった。儚い希望が去って行く。繕った現実だけが左往する。哀しみと憎しみのはざまで不安定に立っている山根の携帯が鳴った。

(高崎です。北山公園東屋にて大変なものを発見しました)

「な、なんだと?」

(京子さんが縄に縛られ、時限爆弾が設置されています!)

 

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