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歴史・時代

宮廷戯曲/第1話

   2005年9月28日  

“月夜の来訪者”

たったひとりの老帝がため、集められた幾千の華が競い合う、ここは後宮。

10年に渡り寵妃の座を占め続けてきた紫嬉(25)の栄華もうつろい始めていた。焦る紫嬉に、ひとりの男が密かに囁く…「ご懐妊召されれば良い」と。

愛を知らぬ寵妃に近づく高級官吏の目的とは、果たして…。

愛と陰謀渦巻く宮廷ラブストーリー。

 

第1話
“月夜の来訪者”

遥かな昔、西方の地に「宗」という国が栄えた。その宗王朝も最盛期を過ぎた頃、都を遠く離れた貧しい田舎町。そこから物語を始めよう。

さしたる名産もない小さな田舎町。そのはずれにある、これまた小さな家の前に、黒山の人だかりが出来ていた。
村中の人々が、あるものの見物に集まっている。
掘っ立て小屋のような家の前には、見物人たちとは一生縁のないような見事な輿(コシ)が停められ、綺麗に飾り立てた少女を乗せるところだった。
「おとっちゃん!」
役人に手を引かれ、輿に乗り込むとき、少女は振り返って、精一杯、父を呼んだ。
わずかばかりの小金と引き換えに、幼い娘を売り渡した父親は、遂に顔をみせることはなかったが。

それから4年、真珠のような肌と漆黒の髪を持つ少女は、花の都で老帝の寵を独占し、後宮の南に館を与えられるまでに上り詰める…。

(それがもう10年も前のことだ)
紫嬉(シキ)は、女官に爪の手入れをさせながら、ぼんやりと思い返していた。
紫嬉は今年で25になる。小柄な身体は、彼女を年より若く見せるが、それでも、大人の色香が漂い始めている。
あれほど紫嬉に執着していた老帝は、彼女が20も半ばに近づくと、途端に興味を示さなくなった。今では、月にほんの数回、寝室に招くだけで、新しい少女に入れ込んでいる。
(あんな子供なぞ…)
好色な老帝の趣味嗜好は、彼が若い頃から、いつも10を少し出た程度の幼い少女に向かっている。
そんな中、15歳から10年近く寵を独占した紫嬉は稀な存在だった。周囲も、そして紫嬉自身も、その栄華が続くものと考えていた。そう、ほんのつい、この間までは。

老帝は、今年で喜寿を迎える。庶民は60まで生きれば、珍しがられる世の中だから、たいそうな長寿である。
正妃はとうに亡く、紫嬉は側室ながら、正妃同然の扱いを受けてきた。この館にも、多くの宮廷人が連日、ご機嫌伺いに列をなしていたのだ。
(それが、どうじゃ?…この手のひらを返したような扱いは)
紫嬉は、閑散とした館を不機嫌に見渡した。
今更ながら、自分の栄華が老帝の気まぐれひとつにかかっていたことを思い知らされる…。

 

-歴史・時代


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