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迷い人に孫の手を3<6>

   

 
 日常は平凡で、けれど非凡に過ぎていく。
 人は人と繋がって強くなる。成長し、その心は育って行く。そんな過程の物語。

 迷い人に孫の手を3。最終話と相成ります。

 どうぞご堪能下さいませ。

○抜粋○

「今回は我が課の企画についてご相談がありまして」
「社員教育をベースにした教育支援プロジェクト、で合っていますか?」

 自分のペースで語ろうとして、途端に出鼻をくじかれた。今日二度目のそれに、これもあいつの差し金かと思った。

「はい。企画書を読んで頂けた、という事でしょうか?」
「立案としては面白い。ですが進捗が遅いと言わざるを得ない。正直、肝心要のインフラ部門への協力要請が、立案の半年後では遅すぎはしませんか?」

 告げられたのは確信だった。俺の企画書を読み込んでくれた上での話だろうが、明らかに前提を語る前に、結果を述べられている。

○○○

 

 
「失礼します。情報システム企画一課の柳瀬の紹介で来ました。本社営業二課の濱根と申します」

 予期せぬ、けれど念願の柳瀬との再会を経て、俺は新たな決意を持って戦場に向かった。ただ前準備なし突入は、新人の頃以来に久々だった。

 事務の女性に案内されて会議室に入る。しばらく待たされて、ドアがノックされた。どんな人が来る? 俺は立ち上がり、名刺を手にした。

「遅くなりました。君が濱根君?」
「はい、本社営業二課、濱根慎吾です。よろしくお願いします!」

 即座に名刺を出す。相手が出す前に出すのは営業の基本だけれど、そういう話ではない。俺を覚えて下さい、そういう気持ちで出す。

「私は情報インフラ部門、部長の吉塚進です。柳瀬から話は聞いています」

 名刺を返され、両手で受け取りながら、相手を必死に分析する。
 相手の懐が見えないのが辛い。何も調べずに来てしまったのだ。茶菓子でも用意して……違うか。ぶつかれと、そういう事か。そもそも人を貸してほしいという時点で、人事権を持つ人でなければ意味がない。

 とはいえ課長より上は、直球すぎる。よく話を通したな、あいつ。

「どうぞ、お掛け下さい。時間がありませんので、手短に行きましょう」

 すっとした着席、俺を見る目は何かを試すようだった。どこか落ち着いた雰囲気に、飲まれそうになる。明らかにやり手だ。これは、厳しいかもしれない。

「今回は我が課の企画についてご相談がありまして」
「社員教育をベースにした教育支援プロジェクト、で合っていますか?」

 自分のペースで語ろうとして、途端に出鼻をくじかれた。今日二度目のそれに、これもあいつの差し金かと思った。

「はい。企画書を読んで頂けた、という事でしょうか?」
「立案としては面白い。ですが進捗が遅いと言わざるを得ない。正直、肝心要のインフラ部門への協力要請が、立案の半年後では遅すぎはしませんか?」

 告げられたのは確信だった。俺の企画書を読み込んでくれた上での話だろうが、明らかに前提を語る前に、結果を述べられている。
 説明プラン、AからCまでの全てが無駄に終わった。正直、その後はなるようになれの精神だった。それを最初から出せと来た。相手を知らず、どう語る?

 悩んで、冷静に考える。そうして、肩の力を抜いた。相手を見る。落ち着け、相手は俺を責めてなどいない。そう、敵ではないのだ。
 この人は、協力者だ。説得に来たんじゃない。俺は、相談にきたのだ。

「その通りです。正直、最初の立案で時間を多く使いました。だからこその、協力をお願いに来た次第です。実際に、協力頂けるところに来たんです」
「ふむ。では遅れは取り戻せると?」
「はい。ただこれは、吉塚部長の協力次第、だと思っています」

 俺の流暢な言葉に、相手が少し笑んでいた。よし、これはいけるか。土壇場でも動じるな。それこそが俺が俺たる所以で、数々の修羅場を潜り抜けてきた営業力だ。

 あの瞬間、みんなの生死を背にした瞬間に比べたら軽い。

 何よりあいつのように。俺の目指すあいつの背は、まだ遠い。

 

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