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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

44口径より、愛を込めて episode27

   

 魔夜は大雅と共に、暫く身を隠すことになった。
 そして、新たな犠牲者がまた現れる……。

 本格ミステリー『44口径より愛を込めて』

 

 言いながら陽太君は、先頭切って歩き出した。続いて、粗末で頼りない階段の前で立ち止まり、振り向きながら「滑るんで、気を付けてくださいね」と、一言。
 そのオンボロ階段は鉄板むき出しで、足を掛ける度、大袈裟な足音を出してくれた。しかも足を乗せる部分しか無い為、真下が丸見えだ。二階に上がると、部屋は4つ。それぞれ外に洗濯機が置かれていた。
 陽太君はドアノブに手を掛けると、洗濯機を数秒凝視し、私へと視線を動かした。
「この洗濯機……」
 そう、主に昭和と言う時代、一般家庭に存在したアレだ。簡単なボタンと捻るレバーしかスイッチらしきものは付いておらず、先に左で洗濯したあと右に移して脱水するという二層式洗濯機。昔、私の家で使っていた物だから知っているのだが、もしかしたら大雅や陽太君は知らないかも知れないと思った矢先だった。
「魔夜さん、大雅さんと洗濯物分けれますよ。良かったですね」
 お父さん嫌いの女子高生の味方的アイテム、なコメントをさらっと言ってのけてくれた。
「陽太、お前絶対厭味だろ。こんなの」
 大雅も、知らないようだ。
「俺じゃないですよ。最初から設置されてるもんです」
 男二人が喧嘩になりそうだったので、私は二人の間に立つと、陽太君の唇に右手人差し指、大雅の唇に左手人差し指を押し当てた。
「喧嘩は辞めて。洗濯物を分ける為のモノじゃないって。左で洗濯したら、右に移して脱水にかけるの。二層式洗濯機よ」
 大雅と陽太君が同時に私の顔を見てから、洗濯機の方へと視線を戻した。
「……中に、入りましょう」
 木造の扉が、耳障りな音を立てながら開かれた。がらんとした室内はお世辞にも広いとは言えない。玄関の正面右に小さな台所と冷蔵庫、真っ直ぐ前にトイレとなっていて、左側が六畳程の和室となっているだけだった。お風呂場はなく、近くの銭湯を使うように言われた。トイレが洋式水洗だったのがせめてもの救いだ。イメージするとしたら、赤い手拭いをマフラーにする、有名な歌がぴったりだ。少しばかりの違いといえば、私が大雅より長風呂だって事くらい。
「魔夜さん、大雅さんが万が一にでもオカシナ事したら、直ぐ言ってくださいね! 即、逮捕状貰って来ますから」
 張り切って言う陽太君に、大雅が無言で軽蔑した目を向けた。もう、ツッ込む気も起きないらしい。
 部屋を見渡すと、大雅と私の最低限の荷物(日用品や着替え)の入ったダンボール箱他、安物新品の布団とこの場に不釣合いな小型液晶テレビ、明らかに中古の折りたたみ式卓袱台が用意されていた。私は壁に立て掛けられていた折りたたみ式卓袱台の足を立て、畳の上に設置するとテレビを付けた。もうこれだけで、部屋の面積はいっぱいだ。
「取り敢えず、座って」と、私が言い終わるが早いか、大雅も陽太君も卓袱台を囲うように座った。お茶でも淹れたかったのだが、お茶葉は疎か湯呑すらありそうにない。明日、買いに出掛けようと思い、私は二人に気付かれないよう小さく息を吐いた。
「塚田が狙われた理由ですが」
 最初に口火を切ったのは、陽太君だった。私と大雅が、同時に彼の方へと向き直る。
「塚田には、丸井巡査部長について調べて貰っていました。それから、虐殺事件の犠牲者について」
「犠牲者について?」
 私の口から、考えるより先に疑問が現れた。

 

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