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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

44口径より、愛を込めて episode28

   

 テレビは、信じがたい情報を告げた。
 そして、事件は解決へと思われたのだが…。

 本格ミステリー『44口径より愛を込めて』

 

【十三章:事件解決】

 最初は、自分の耳を疑った。次に、自分の目を疑った。
 しかし何度確認してみてもニュースの松野美雪さんは、私の知っている松野婦長に間違いなかった。
 見知った顔写真がテレビ画面に映し出され、松野美雪が看護師であると紹介された。磨硝子を重ねたように画像処理された病院と、音声変換された同僚看護師のインタビュー。それだけで私は、ショックの為、吐きそうになった。
 私が大雅と陽太君と最初に見たニュースは、松野さんの死を淡々と告げるだけの内容だった。
 ニュースのよると、松野さんの遺体第一発見者は、松野さんのお母さん。松野さん自宅マンションは実家から近く、一昨年旦那さんである松野さんのお父さんに先立たれた松野さんのお母さんは、寂しさを紛らわすためにちょくちょく松野さんの自宅に来ていたらしい。お母さんは、ご近所から頂いた野菜のお裾分けに自宅マンションを訪ねたところ、リビングで亡くなっている松野さんを発見したとの事だ。お母さんは自宅マンションの合鍵を持っており、それで中に入ったんだそう。死後、五時間経過していたとの事だ。
 司法解剖の結果、死因はヘロイン中毒と判明。警察の家宅捜査により、松野さんの自宅マンション室内(カーペットの上に落ちていたとのこと)から1mgのヘロインと、Glog26と共に鍵が二本発見された。Glog26は、私と大雅がハイブリッドカーから狙われた時、犯人が向けていた銃だ。日本での一般人銃所持は認められていない為、一般人である松野さんが銃を所持していただけでも大注目される内容であるにも関わらず、銃と共に発見された二本の鍵がなんなのか。そこにマスコミや警察が注目しない筈はなかった。勿論、ニュースを見ている側も同じ思いだったのは言うまでもない。
 そして、更なる情報が流れるまで、時間はかからなかった。松野さんの勤め先である日向野先生の病院にも警察の捜査が入った。そして、松野さんのロッカーから鎮痛剤に見せかけたヘロインが10g発見され、問題の二本の鍵がコーラカル・アヂーン大量虐殺事件で犯人グループが潜んでいた第一次の倉庫と第二次の倉庫の鍵だと判明された。松野さんがコーラカル・アヂーン大量虐殺事件に関わっていたという疑いが浮上した直後、松野さんの部屋からデータ化された日記が発見された。日記はキッチン棚の奥に隠されていた為、発見されるまで時間を要したとの事だ。
 日記に書かれていた内容は、ヘロインを鎮痛剤だと偽り患者に与えていた事。更に欲しがった者には、適当に雇った外国人を仲介人にして密売していた事。コーラカル・アヂーン大量虐殺事件は、ヘロイン密売を大きな組織の仕業だと思わせ、捜査を攪乱させるために仕組んだ計画だったが、殊の外大きな事件に成り過ぎてしまったという事。コーラカル・アヂーン大量虐殺事件被害者への侘び、謝罪、後悔。そう言った内容が、思い付くままに書き綴られていたという。
 事件解決、と報道された。松野さんが、謎とされていたコーラカル・アヂーン大量虐殺事件の黒幕だと、社会は冷たく告げた。テレビ、雑誌、ネット…あらゆるメディアで証明までされた。そして、世間は他人に無関心だと再確認させるかの様に、このニュースも一ヶ月と経たず、視聴率獲得や出版物売上のネタにされるだけで、被害者を除く人々の心には何も残さなかった。
 松野さんが亡くなってから数日後、松野さんのお母さんが自殺した。連日連夜押し寄せる報道陣の嵐、嫌がらせや脅迫に耐え切れなくなったそうだ。遺体の側に置かれてあった遺書には、娘の不祥事を詫びる文章が、延々と書き連ねてあったとのことだ。
 しかし私と大雅は、コーラカル・アヂーン大量虐殺事件解決の情報は得たものの、暫くはボロアパートを転々とするよう命じられた。
 一軒目と似たような二軒目のボロアパートへの引越しを済ませた時、久々に日向野先生が訪ねて来てくれた。先生に会うのは、お見舞いに来てくれた時以来だと記憶する。
「突然お邪魔して、すいません。どうしても一言、お詫び入れたくて」
 日向野先生は持っていた、老舗で有名なお煎餅店の紙袋を差し出しながら言った。
「ありがとうございます。実はまだ、信じられなくて…」
 少し間を置いて、日向野先生は語り出した。
「私も、同じ気持ちです。松野さんは、本当に良くやってくれていましたから。同僚は勿論、患者さん達にも本当に信頼の厚い婦長でした。本当に、彼女に何があったのか。何故、こうなる前に何かしら助けてやれなかったのか。気に病むばかりです」

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


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