幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

SF・ファンタジー・ホラー

RAT <四十>

   

 金丸の通夜に行かなくては。警察葬ということで、霞ヶ関まで出向く事にした。

 

 
 目覚めると、京子はベッドに居なかった。いつの間に起きたんだろう。ラットも居ない。寝不足の目をこすりながら扉を開ける。ふらふらと風呂場へ向かい顔を洗う。少し目が覚めてきた。
 今日も相変わらず暑い。もう八月も半ば。もう直ぐ盆だ。相変わらずシャッシャと鳴くクマゼミに愛想をつかせながらリビングへ向かう。
 冷蔵庫からジンジャエールを取り出し、一気に飲み干す。炭酸の粒の荒さと、生姜の辛味が喉にクッと来る。フゥ~っとため息を吐き、後ろを振り返る。誰も居ない。京子とラットはどこに行ったのだろう? ソファーに座りラッキーストライクに火を付ける。煙をゆっくりと吸い込み、ため息の如く吐き出す。白い煙が顔の周りをウロウロとする。すると背後に人の気配を感じた。と、ともにジャキっという金属音が鳴り響いた。これは……銃だ! 尋常じゃない殺気が俺に本能的に警戒を促す。

「中々面白い作戦を考えてくれたんだね~。とても楽しめたよ」
 後ろを振り返れない。だって……その声は確かに死んだ。あの時死んだ、廣瀬の声だったからだ。ジトッとした、舌舐めずりするような声。それに頭に突きつけられている冷たい銃口。こんな状況で振り返れる勇気を持っている奴が居るのか?

「お前は……死んだはずじゃ……」
「そう思っているのは君だけかもしれないよ、斎賀くん……僕達の計画の邪魔をしたね。君は僕にとって有害な存在と判断した。普通ならすぐさまこの散弾銃をぶっ放して頭をスイカにするところだが、それじゃぁ芸が無い。暫くお話ししようじゃないか? え?」
「お前達は何を企んでいる? 服部はどこだ?」
「服部? 誰でしたっけ~僕らの企み。それを話したところで君は分かってはくれまい。それか、僕と一緒に世界を壊してみるかい?」
「そんな事するもんか! とぼけるな! お前の大事な教授だよ。どこにいるんだ?」
「ほ~命乞いもしない。精悍ですね。楽しめそうだ。先生の事は君が一番良く知っているんじゃないかい? 僕に尋ねる前に自分自身に聞いてみるべきだ。君は見事、僕の時限爆弾を処理した。その明晰な頭脳に正直驚いたよ。僕の趣向を分かってくれるんだね。君は僕と同じさ。斎賀くん、君は直接手を下さないだけで、僕と同じ殺人犯だよ。それを肝に銘じておく事だね」
 その時、銃声が轟き後頭部の銃の感覚が無くなった。頭の自由が利く様になった俺は銃声のした方向を見た。
 そこにはニューナンブ式リボルバーを構えた金丸の姿があった。

「斎賀さーん。まったく危ねーったりゃありゃしない。斎賀さんがお前みたいな猟奇殺人者な訳ないだろう。俺を認めてくれた、立派なお巡りさんだと言ってくれた、優しい心の持ち主だ。斎賀さんに指一本触れんじゃねー。あっ、斎賀さん。もう時間です。行かないと……斎賀さん。最後に言っておきたかった。あの時、俺の背中を押してくれてありがとう。お陰で俺は自分に納得ができた。あのまま踏ん反り返るだけが脳の刑事から、自分の意思で正義を行える人間になれた。本当に、本当にありがとう」
「待って! 金丸さん! 俺も話したい事が……」
「時間は待っちゃくれませんぜ、じゃっ」

 

-SF・ファンタジー・ホラー


コメントを残す

おすすめ作品

アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編 第34話「それでも――――」

   2017/11/20

探偵の眼・御影解宗の推理 【嘆きの双子】15

   2017/11/20

ロボット育児日記39

   2017/11/17

忠実な部下たち

   2017/11/17

モモヨ文具店 開店中<36> ~帰り行く者~

   2017/11/16