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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

見習い探偵と呼ばないで! Season6-4

   

 社員に事情聴取をとる御影と森谷。言葉のひと言で不快にさせてしまうことを御影はようく身に染みた。
 自分になにが足りていないか、推理するだけが探偵ではないと自覚しはじめる。

 工場の外で偶然に前原事務員と遭遇した。男子社員から人気で、下田のことは毛嫌いしている。だが、その胸のうちは、小柴級にひどい女であった。

 下田という男、聴けばきくほど悪評しかない。社員全員が殺意を抱いていたとわかると御影はさらに犯人の目星に錯綜していた。

 だが、一番下田と関わりがありトラブル続きなのは、やはり上倉だった。

 上倉は下田が途中で帰社してしまったことで、社長命令で自宅まで行く。翌日出社した下田は、頭を下げた上倉のことをほかの社員に言いふらし揶揄していた。

 だが、そこで事務員の五藤が一喝して黙らせた。明るく温厚そうな五藤が意外な度胸をみせたと、前原は話す。
 それと現状の会社がどういう状況であるかを教えてくれた。
 殺人事件で殺された会社。殺害した犯人がいる会社。その株価は急落した。
 噂が広がり取引先が去っているという。すべて上倉が下田を殺害したことでの影響が及んでいる。

 濡れ衣になった今でも信頼は持ち直していない。

 五藤と町谷事務員にも話を聴いた。町谷はとんでもない女であることがわかった。

 御影も森谷もべつの意味で恐怖するのだった。が、御影はずっと探偵の目、プライベートアイを発動させていた理由がある。

 

 おなじ質問をしてしまった御影。案の定、永田は不快な顔になって否定して去っていった。

「だからね、聴きかたをだね、気をつけないと」森谷がいった。

「むずかしいですね。相手の気持ちを汲んでいるんですけど、ちょっと言葉が足りないと自覚しました」御影は沈んだ顔をしていた。

「そうなのだよ。きみが学ぶべきところは、相手の感情を映し鏡のように悟り、同感してしっかりと傷つけない言葉で伝えないとな」森谷は人生経験の差からの物言いだった。

 御影の足取りは森谷より一歩下がっていた。

「あら、探偵さん」

 ふたりの前に突如現れたのは、事務員の女性だった。

「あなたは──」森谷は顔をみただけで、応接室で対応したのは若い女性のほうだった。

「前原 みち子(まえはら みちこ 27歳)です。事務員してます。今年入った富士子ちゃんを教育してます」

「富士子?」森谷はだれか思い浮かべた。

「応接室で冷茶いれてくれたひとですよ。きょうは休みですか?」御影の記憶力が上であることをみせつけた。

「いえ、いまはたぶん銀行へ、給料日間近なので決済に、おつかいです。ほかの女子社員がついてね」前原は明るい性格なひとだ。

 森谷は御影を見つめていた。

「ちょっといまいいですか?」御影は、森谷の無言の視線に応じた。質問しろ、と。

「前原さんはこの会社はどうですか? たのしいですか?」
 御影はいがいな切り口できいた。

「まぁ、わたしはこれといって良し悪しはないかな。入社5年目ですし、もうベテランの域。それに退職する理由もないのよね。彼氏がいるけど、あっ、別のところにね」

「そういえば人事の彦根課長がいってたな」御影はいった。「けっこうこの会社の男性社員から人気あるって」

「あらやだ、うれしい。そうなのよね。どういうわけか。でも製造会社って男性のほうが多いでしょ。男臭い工場だし、汗と油、そういう臭いって女性があまり入ってこないからね」前原はゲラゲラ笑っていた。

「そうですよね。べっぴんさんだと思いますよ」森谷が恰幅のいい腹を立てながら大笑いしていた。

「まぁ、うれしいこというのね探偵さんて」前原もおなじように大笑いしていた。

 御影はこのふたりの井戸端会議のような話し方に呆然としていた。

「前原さん、下田についてきいてもいいですか?」御影はいった。

「下田くんね」前原の顔に笑顔は消えた。

 その顔は御影はじつにキライな顔だった。

「彼はちょっとね、どうも都会派を印象づけてか、足立区住人を見下していた。東京ギリギリのところに住んでいる埼玉、千葉のような田舎者だと、軽蔑するようなことをいうの」

「ほんとうに?」御影は驚いた。

「ええ、だからわたしも、大っキライ! 給料日になるたびに、感情が高揚してわるいことをしようと考えてしまった。わたしは人事も兼ねている事務員だから、いつも給料を0円で入力しようと企んでは、指はテンキーの1以上の数値を打っていた。わたしはその指にブレーキがかかり、躊躇っていることにいつも悔しがっている。その感情の葛藤に苛まれていたわ」

 とんでもないことを前原は、ケロッといってのける。

 御影は、小柴いがいにも恐ろしい女がいるものだと心底おびえるほどだった。

 森谷も視線をそらしていた。おそらく恐怖を感じているのだろう。

「上倉さんが殺したと思いますか?」御影はまたやってしまった。成長しない。だが、この流れはこれでいいと思っていた。

「どうかな、ちょっとわからない。てか、わたしが殺してもいいくらいだったし、だれかしろ動機はあると思う。だから上倉さんが殺してないとはわたしは思わない。みんなに言ったら、わたしは責められるかもしれないけどね。でも──」

 

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