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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

見習い探偵と呼ばないで! Season6-5

   

 的葉社長とも話ができた。

 御影はまず謝罪した。上倉が犯人だという裏をとることもせず、自白を信じて的葉部品工場の株価が急落する結果になったことに深く詫びたのだ。

 社長もまた己の判断ミスによって、こんかいのような結果につなげていたことを反省していた。

 だから探偵のせいではないと弁解してくれたのだ。

 翌日、驚愕の報道が流れた。御影も森谷も唖然となり、さっそく的葉部品工場へと向かう。

 上倉が釈放された。もう会社にもどっている。賑わっている光景を見ながら、御影はある疑問を感じていたが、それがなにかはまだわからない。

 そこに、氷室探偵事務所の面々が次々現れた。

 そして浮かびあがる。上倉釈放とともになんらかの圧力がかかっているその人物に、森谷は感づいていた。

 御影やほかの探偵たちはまだわからないが、時間の問題だった。
 すべてのピースがそろい、嵌めこんでいけば答えはみえる。

 そのまえに水桐が森谷の弱点について話す。それが盲点となり、このような推理ミスにつながったことも要因として御影は理解した。

 しかし、ひとつだけとんでもないことを森谷がいった。

 御影は絶句した。しかし、仲間の協力、尽力があって、見習い探偵の推理ショーの幕があがる。

 

「どうかね?」

 意外な人物が御影と森谷の前に現れた。

「あ、あなたは?」御影は言葉に詰まった。質問できるかどうかタイミングだろうと思ったがちょうどいい。

「お初にお目にかかります」森谷は丁寧に頭を下げた。

「的葉部品工場社長の的葉 鉄治(まとば てつじ 55歳)です。ご苦労さまです」

「どうしてここに? 社長も自販機でコーヒーですか?」御影は輪を和ますようにいった。

「あっはははは、それはけっこう」そういうと社長は自販機の前に立ち、コインを三枚入れて缶コーヒーを買った。

 120円だ。

「むかしは100円だったな。自販機の缶コーヒーは、高騰しちゃってね」

「そうですね。たまに100円のところもありますけどね」御影はいった。

「御影くん」森谷は世間話はそこそこにして、時間が限られているかもしれないから早々に訊ねよ、というサインを目で送っていた。

「社長、訊ねてもいいですか?」御影はいった。

「もちろん、そのためにきた。彦根課長が探偵さんがきて、社員のことを訊ねたいとの申し出で社内にいるときいたからね。どうせならわたしもお話せねばと」社長はいった。

「感謝します。それと先にお詫びいたします。上倉さんが犯人ではないかもしれない。われわれの探偵の目で見立てた推理に自白したものだから、そのさきをもっと細部を調査してから結論をだせばよかった。浅はかだと自覚しています。申し訳ありません」頭を下げた御影だった。

 そんなことができるとは森谷は思ってもみなかった。社会人としてのミスを認め謝罪する。だが、チャンスをもらい挽回しようとしている御影の成長ぶりは森谷も目を瞠る態度だったとうなずいていた。

「森谷さんも」そうだ、自分の謝罪の立場にあったことを御影に指摘された。これは屈辱ではある。

「申し訳ありません。彼の上司であるわたしがいながらも誤った推理に至ってしまい、御社の看板に汚点を残す結果になっていること存じております」森谷がいった。

 株価急落のついてのことをいっているのだ。社長もそれは気にしている。

「まぁ、いいんだ株のことはしかたがないことだ。ある意味こんかいのことは人間関係のもつれからはじまっている。それはわたしが判断ミスしたようなものだ。探偵さんは外部の者だが、取引先やライバル社と同様で真実を知らずに締結できるものではない。会社というものはな」
 的葉は笑っていたが、苦心しているのが表情からみてとれる。

 探偵ふたりは同情するように沈んでいた。

 的葉の微笑みは耐えなかった。「わたしの代で看板を下ろすことになったらと思うと、つらくてね」

 代々続いている的葉部品工場、いまどきの若い者が定着しないのは力仕事、汗臭い、地味な作業着、そういうところからのファッション的ではないから敬遠される時代なのだろう。

 やっと高学歴者の下田を雇うことができて、会社のイメージ向上につなげられる宣伝や、明るい雰囲気の環境で勤務していることを謳い文句にしようと的葉や但馬、彦根なども考えていた。

「失敗したよ」大きくため息を吐いた的葉社長。

「若者が悪いんですよ。同じ年代として情けないと思ってますよ」御影は代弁した。

「そう思うかね?」高齢者の社長は同情してもらって、救われたような顔に変わった。「ちょっと、甘さを出して特別枠に置いていたかもしれない。昔なら殴り飛ばす粋のあるおっさんだ、と言われて嫌われていたのだがな」

“口より拳が先に出る”。

 御影と森谷は目を丸くさせていた。

「そうなんですか?」御影はいった。「よかった、おれこの会社にむかし入らなくて」

「だいじょうぶだよ。わたしがそんなことをしないようになったのは、ずいぶん以前からだ」社長はニンマリした。

 御影は一歩引いていた。

「だが、いちばん心労を患ったのは、殺人事件が我が社で起きてしまったことだ」

 社長は籠絡していた。確実に看板を下ろす決意さえしていた。

「もう退職金を分配するよう彦根くんにも指示しているくらいだ」

 社長からはじめて聞いた。彦根課長はどうやらすべての内情を話してくれていないようだ。

「やっぱり、彦根さんにもういちど聴いたほうがいいすかね?」御影は森谷につぶやいた。

「いや、だいじょうぶだろ。崩壊寸前の自社を守りたいがためにくちを閉ざしただけだ。またなにかきっかけがあったときで…」森谷は眉毛を動かした。同意する意味だ。はじめてみせるリアクションに、御影は戸惑った。

「ほかに訊きたいことは?」社長がいった。

「はい、それなら上倉さんは下田をほんとうに殺していると思いますか?」御影はまたしても言葉を選ばず率直にきいた。

「それは警察の判断に任せよう、もっとも探偵のあなたたちも信用してます。ですからお願いします」頭をふかぶか下げる社長に、探偵は驚愕した。

「頭をあげてください。それはもちろんわれわれの仕事です。依頼を受けてないがしろにはしない」御影はいった。

「ありがとう」社長は顔をあげて微笑んだ。

 

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