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不死の頭脳

   

ジャーナリストの新崎 義秀は、世界の大メディアも持っていない独自の情報源、「吸血鬼ルート」を掴んでいた。

血が手に入らず餓死寸前だった吸血鬼、リヒャルト男爵を助けたことをきっかけに関係を持つようになっていったのだが、何百年と生き続ける彼らの存在は極めて貴重で、仕事を進めるための原資ともなっていた。

そしてある日、新崎はついに、吸血鬼の協力により各国のスーパーコンピューターが世界を支配しているという仮説を本にまとめた。本は大ヒットし、世界を揺るがすほどの反響となった。

だがそんなある日、新崎は、いつになく真剣な表情をしたリヒャルトから、島の外に出るよう言われたのだった……

 

「か、完成した……」
 今年で四十歳になる新崎 義秀は、PCのモニター上に映るその原稿を見て感極まった。
 ジャーナリストとして二十年仕事をしてきたが、ここまでの達成感を味わったことはない。
 自動的に各所に送信されていくデータを見ていると、気が抜けて意識が飛びそうになってくる。
「いい仕上がりじゃないかと思いますよ。私には今時風の機械などまったく分かりませんけど」
 窓を閉め切った部屋の隅に置かれたテーブルで、百二十年ものの白ワインを飲んでいる男が言った。
 現在イメージされる礼服よりもずっと華美で、仰々しいとさえ言える格好だが良く似合っている。
「おいおい、やけに頼りないじゃないか。何でも知ってる男爵さんが」
「いえいえ、何でもだなんてことはありませんよ。それに、私が現役の頃はタイプ機だってなかったわけですから、いまいち実感が掴めないんですよ」
 新崎に合わせるように、色白の若く見える男、「リヒャルト男爵」はにこりと笑った。
 自称貴族でなく、正式に爵位を賜ったというだけあって、物腰にも上品なたたずまいがある。
 もっとも、彼が貴族だということを知る者は皆無に近い。
 どこの国に聞いても記録は残っていないし、記憶にはなおさら残っていないだろう。
 何故なら、リヒャルトが爵位を受けたのは、二百年以上も前に歴史から姿を消した国だからだ。
「君のおかげだ。君が取材に説得力と厚みを加えてくれたから」
「そんなことはありませんよ。私など、単に長く生きているだけに過ぎません。三百歳にもなって出しゃばりの悪いクセが抜けないだけです」
 リヒャルトの謙遜を、新崎は口と手振りで否定したが、三割ぐらいは「もしかするとそうなのかも」という感情もあった。
 実際、リヒャルトが初めてこの島に、土の下に黒く硬い岩肌があるというだけの島に姿を現したのも旅好き故だった。
仕事以外では一切人と接さず、兄弟も親しい家族も皆無である新崎は、絶対に観光地化はされないだろうこの島に居を構えていた。
 人気の無さと静かさを好んでのことだったが、ある日、新崎の家の前に島中の人、──と言ってもたったの五人だが──が集まっていた。

 

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