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SF・ファンタジー・ホラー

RAT <四十二>

   

 金丸の通夜も終わり、次の日俺は珍しく早起きをした。ラットの様子がおかしい。ジジイの元へラットを連れて行こうとしていたら京子が付いてくるという。珍しい事もあるもんだと、のんきに考えていたが、俺の知らなかった事実が明らかになる。

 

 
 翌朝、俺はかなり早起きをした。六時半。まだ蝉も鳴いていない。
 自分でトーストを焼くと、バターを塗ってさっさと済ませた。昨日からラットの様子がおかしい。呼吸が乱れて、苦しそうだ。これは月検診の前触れかもしれない。服を着替えて名取の所へ行く準備をしてた時、京子が寝室から出てきた。
「早いね……もしかして、名取の所に行くの?」
 眠そうな目をこすりながら俺に問うた。
「そうだよ。なんだか昨日の夜からラットの調子がおかしいんだ。ジジイに診てもらうついでに服部の事を話してくる」
「私も行く」
「え? いいけど、珍しいね」
「うん。ちょっとね……直ぐ支度するから待ってて」
 直ぐに支度するとは言ったものの、ゆっくり朝食を摂り、ゆっくり化粧を整える。結局、家を出たのは九時だった。
 車を出し、国道を走る。夏なのに少し涼しい風が窓から入ってくる。もう秋は直ぐそこまで来ているのかもしれない。
 道中、京子は無言だった。ずっと窓ガラスに額を付け外の景色を眺めている。
 少し曇った空は、何かを予兆しているようで、道中ラットが目を開ける事はなかった。
 名取の家に着く頃、小雨がパラパラと降って来た。
 屋敷に絡む蔦たちは葉に雫を溜め込んで貯蓄している。
 風は止まり、名取の屋敷が死んだように見える。
 俺達は門の前に立ち、門が開くのを待った。しかし幾ら待っても開かない。まだ寝ているのか? そこで京子が門の前まで行き、暗証番号のキーパットのカバーを開け、操作した。すると門は大袈裟な音を立て開いた。
「京子……なんで開け方を知ってたの?」
 俺の質問に答える事なく先へ進む。いつもは階段を上がって洞窟の中へ入るのだが、それを通り過ごして、初めて見る扉の前に立った。濃い木目の年季の入った扉の前でカバンの中をゴソゴソと何かを探す。銀色に光る鍵をその扉に差し込み回した。ギィーっと云う音と共に扉が開く。中はごく普通の玄関だった。ピンクのペンギンの傘が立てかけてあり、靴を脱がずに中へ踏み込んだ。
「なぁ、京子……もしかして」
「きょっ、京子……お、おかえり」
 頭にピンクのシマシマのナイトキャップを被った名取が取り乱した様子で出迎えた。
「別に帰って来た訳じゃないわよ。忘れ物を取りに来ただけよ」
「さっ、さよか。まあ、何にせよ、おかえり」
 たどたどしい態度の名取を無視するように奥へと入っていった。
「ほんでお前は何しとんのや?」
 慌ててナイトキャップを脱ぎ、俺に尋ねた。
「ラットがおかしいんだ。呼吸が乱れて、目も開けない。何とかしてくれ!」
「月検診には早いしな……おかしいなぁ。いやちゃうちゃう! 京子と何してんねやて!」
「えっ? 京子は俺の彼女だけど……」
「なぁ! なんやてぇぇぇぇぇ?」
 白髪のジジイが出す声とは思えない声を出した。それはすっとんきょうな声だった。
「ジジイこそ、京子のなんなんだ?」
「ワ、ワシは父親や!」
「なぁ! なんだとぉぉぉぉぉ?」
 俺もすっとんきょうな声を出してしまった。
「まぁ、とりあえず上がれ」
「おう、そうさせてもらうよ」

 

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