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SF・ファンタジー・ホラー

RAT <四十三>

   

 なんてこった! ラットが巨大化してしまった。これではまるで、服部の大ネズミじゃないか!?

 

 
 まるで服部の大ネズミだ!
 大きさは大ネズミまではいかないものの、体長八○センチはあるだろう。中型犬位の大きさだ!
「ジジイ! 一体何がどうなってんだ!」
 名取はうろたえながら答えた。
「ワシがいつもの栄養剤を注射した瞬間やった。ラットの体の表面が波打ち初めて、みるみるうちにこのデカさになったんや! ラットにはワシが作った人工細胞を埋め込んである。それが突然変異したんや!」
 俺は頭を抱えた。ラットがデカくなってきていたのは、食生活ではなくて、細胞のせいだったのか! 食事を抜きにしたりして悪い事をしたと思った。が、今はそれどころではない。
「ラット! なんでデカくなっちまったんだ?」
 ラットは大きくなった頭を俺の胸元へ擦り付けてきた。俺は恐る恐る頭を撫でる。ラットは少し低い声で「チュウ!」と鳴いた。全身がデカくなってるから、声も低くなっている。
「ラット、お前は前からデカくなろうと思っていたのか? だから……」
 ラットは俺の頬に冷たい鼻先をくっつけ、頷いた。脳もきっとデカくなっているんだろう。前より意思の疎通がしやすくなった気がする。
「ジジイ! どうすんだよ、これ!」
「いいや、ワシのせいやないで! ラットの意思や」
「またそうやって逃げる……」
 京子がボソッと呟いた。
「あなたは自分が大好きなんでしょ。自分さえよければそれでいい。それで周りの人を巻き込んで行って、自分は王様みたいに踏ん反り返る。自分は天才だ! 世界で一番秀才なんだ! 俺は特別な人間だ。特別な奴にしか、俺の価値は分からない! って、そりゃみんな飽き飽きして逃げちゃうわよ。バカじゃない? 私だってそう、もう飽き飽きしたの」
 きつい口調で、叩きつけるように言い放った。
「京子! 言い過ぎじゃないか?」
「君までこの人の味方するの? ありえない。君だけは私の味方でいてくれると思っていたのに……」
「俺は京子の味方だ! だから言うんだ。今のは言い過ぎだよ」
「もう知らない!」
 京子は走って何処かへ去っていった。
「京子! どこ行くんだよ!」
 俺の声は京子に届いただろうか?
「坊主、ええんや、放っとけ。年頃の女は分からんな! お前もアイツのワガママに苦労してるやろ?」
「京子がワガママ言ったことなんてないぞ。あんな京子を見るのは初めてだよ。ジジイ、よっぽど嫌われてんだろうな」
 名取はしゅんとした表情で、床を見つめていた。俺は大人の男の悲しい顔を見るのが苦手だ。何故か泣けてくる。俺はジジイの手を引っ張り立ち上がらせた。
「そうか……お前には優しんやな、アイツは。ワシはワシなりにあの子を愛してきたつもりや。どうやったらその気持ちが分かって貰えるんやろうかな。まぁええわ。ラット、どうする?」
「仕方ないだろ? 連れて帰るよ。だが人目に付いたらまずいよな。うちで大人しくさせとくよ。まぁ、元気になったみたいだし」
 そう言って、俺はラットを連れて車に戻った。車の中で京子がふてくされている。ラットを後部座席に乗せ、俺は車に乗った。

 

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