幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

SF・ファンタジー・ホラー

RAT <四十五>

   

 名取が俺にラットを託した訳が分かった。そしてラットの正体も。俺たちは真犯人の元へと向かう。

 

 
 俺は服部に家の地下室へと案内された。そこにはSF映画で見るような設備で埋め尽くされていた。青く照らされた大きなビーカーの中には人間の内臓らしきものが浮かんでいる。それが約三○個程、等間隔で配置されている。メインのコンピューターとみられる装置の前には一枚の写真が貼ってあった。そしてそれは俺にとって見覚えのあるものだった。
 名取の家の京子の部屋で、京子が見つめていた写真と同じだった。二人の男の間でにっこりと笑う少女。
「ワシはな。もう一度会いたい人がおるんじゃ。しかし、ワシに残された時間はもう少ない。自分が医者だけに、自分の寿命は自ずと分かってしまうものじゃ。だから、人工的に人間を作ろうと、この二十数年努力してきた。ワシは学会から見放され、育児権を剥奪された。世の中の人間は、ワシが自分の子を実験に使うとでも思ったのじゃろう。そんな事するはずも無いのにのう。ただワシは動物実験を嫌った。それで何が解る? 何が変わる? 一つの命として人間との差は無いはずじゃ……結局は人で実験するしかない。その思想が危ないと、人々はワシを疎外視し始めた。そしていつの間にかワシは居場所を失った。その結果これじゃ。もっと技術の発展した設備だったらワシの研究は完成していたのかもしれん。しかし、現実は現実じゃ。心のどこかで、パンドラの匣を開けるような、そんな後ろめたい気持ちもあった。人工的創造人類が誕生したら、人はその人工的創造人類をどう扱うと思う? 人権なんてあると思うか? いや、人は自分の至福を満たす為の道具として使うだろう。だから迷っているんじゃ。完成まであと少し。完成させようと思えばできる。ワシの長年の夢が叶うのじゃ。なぁ元気や、お前はどう思う?」
「俺は……俺はいけない事だと思う。人が人を人工的に創造するなんて、神の領域だ。犯してはいけない罪な気がする。でもあんたの気持ちも分かる。この間亡くなった金丸さんをしのぶ山根さんの姿を見ていたら、自分の子供って、とてつもなく大切な存在なんだなと思う。だから、俺は反対だ。でも俺はあんたの願いを叶えてやれるのかもしれない。心当たりがあるんだ。だから暫く待っていてくれないか?」
 服部は目を丸くして驚いていた。だが、俺が冗談を言っている訳じゃない事は伝わっていると思う。
「そうじゃの。ワシはあまり人を信用しないが、お前なら信じてみてもいい気がする。どれだけワシの体が保つか分からんが、信じて待つとしよう」
 その服部の表情は、柔らかく、あたたかな表情だった。
「最後に教えてくれ。ここ最近、名取のジジイと会ったか?」
「おぉ、それじゃそれじゃ。さすがじゃのう。もう犯人が判ったか。二年前かの? 一度ワシのこのラボを見に来た。ラットは元気が持っておるんじゃろ? なんとなく分かる。名取が大事にしてたラットをお前に渡した理由は分かるか?」
「ラットの行動統計を取る為……か?」
「そうじゃ。その通りじゃ。ラットは一月で死ぬ。そしてその遺伝子をクローンのラットに入れ替える。そしてラットは蘇る。一月に一回来いと言われとったじゃろ? そうやって行動統計を、経験をさせてラットを徐々に大きくさせる。そして例の大ネズミの数倍も賢い大ネズミが完成するんじゃ」
 え? ラットが死んでいた? そんな……そんな訳……でもそういえば、教えた芸は月検診ごとに忘れていた。そして今日みたくデカくなった。あれはラットの意思じゃない。名取のエゴだ!
「辛い事実を伝えてしまったかの? でもいずれ分かった事じゃ。元気……心を強く持つんじゃ。自分を見失うな。分かったな!」
 自分を見失うな……か。親父と同じ事言いやがる。俺はもう見失わない。自分の正義をできる人間になるんだ。
「ありがとう。俺は自分の正義を通して来るよ。きっと戻って来る。プレゼントを用意して戻って来るから、それまで死ぬんじゃねーぞ」
 俺は地下室から駆け出した。さっきまでの薄暗い部屋の中で山根達が首を傾げている。犯人の特定が出来ない様だ。それもそうだ。誰もが信じきっている今や世間を騒がす人物なのだから。

 

-SF・ファンタジー・ホラー


コメントを残す

おすすめ作品