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ラブストーリー

コーヒーが香るまで

   

*特集企画で書かせていただいた『Butterfly typhoon』に出て来る、蝶子と高橋の新たなお話です。宜しければまずは『Butterfly typhoon』をお読みになってから本作品をお楽しみ下さい。

恋に臆病になっていた蝶子。今まで断っていた高橋の誘いに乗るようになり、ふたりで飲みに出かけたのだが、蝶子は酔っ払ってしまい…。

 

「でさぁ、高橋、聞いてる?」
「聞いてる聞いてる」

 まいった。なんで、この人こんなに酒癖悪いんだろ。
 戸田蝶子さん、27歳(独身)は、俺のデスクの隣のお姉さん。
 入社当時からデスクが隣同士で、色々と仕事を教えてくれたり、叱られたり叱られたり…で、最初はキツイ性格してんなぁとうんざりしてたんだけど、知らない内に気になる存在になっていった。
 飲みに誘うこと数回、断られること数回。断られ率120パーで、諦めたほうがいいのかな? と思い出した頃、蝶子さんに変化が訪れた。
 いつも長い髪をきりっと一つに束ね、化粧もしてるのかしてないのかわかんない程度で、細い黒縁フレームのメガネっ子だった彼女が、ある日を境に髪をおろし、ばっちりメイクに変わり、メガネがコンタクトに変わり、あまつさえ香水までつけるようになり、これはいよいよ男でも出来たかと焦っていたら、
「高橋ぃ、あたしの話聞いてる~?」
「…や、聞いてなかったっス」
 とにかく、何故だか知らないけど、こうやって俺の誘いに乗ってくれるようになった。
 本人曰く、彼氏なんか居ないそうで、未だあの急激な変化の理由は謎のままだ。それに彼女の変化は一定期間だけのもので、今は完全に元の蝶子さんに戻っている。
 女っぽい蝶子さんも好きだけれど、俺は色気も素っ気もない彼女のほうが好きだったりする。だってもともと俺は、そんな彼女を好きになったんだから髪型とか化粧とかはオプションに過ぎない。
 戸田蝶子という人間は、一見キツそうに見えて、その実とても優しい人だということを、たぶん俺だけが知っている。彼女は誰に言われたわけでもないのに、誰より早く出社し、全員のデスクを拭き、みんなが出社する時間を見計らってコーヒーを沸かしてくれている。
 それを俺が知ったのは入社間もない頃で、仕事が片付かず残業し、そのまま朝までデスクで眠ってしまった時のこと。
 コーヒーの良い香りで目が覚めた。眠い目を擦り擦り身体を起こすと、蝶子さんが「お疲れさま」と俺のデスクの上に置いてくれたコーヒー。
 その時、俺は思ったんだ。
 こんな人が俺のお嫁さんになってくれたなら。
 でも、こんなに酒癖が悪いんじゃあな~。
 知らなかった。今まで一緒に飲みに行く機会がなかったので、彼女がこんなにも酒に弱いとは。
 蝶子さんが飲んだのは、中ジョッキ2杯、今3杯目。
「蝶子さん、もう止めたほうが」
「何よ、高橋のくせにあたしに命令するわけ?」
 高橋のくせに、って俺全否定じゃん。
「大体あんたさぁ~」
 蝶子さんの話は続く。だけど支離滅裂で何を言っているのか、さっぱりわからない。俺は適当に相槌を打ちながら、どうやって彼女を送って行こうかと頭を悩ませた。

 

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