幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ノンジャンル

心の中のもう一人の自分

   2016年1月13日  

 深夜まで色々なことを語り明かした速斗と諒。二人は次第に打ち解けていった。
 リビングで眠る速斗を目の当たりにした子どもたちだったが、諒の口から“パパの友達”だと聞いて、速斗にひそかに親近感を抱いた。

 目が覚めると、速斗の耳に入ってきたのは子どもたちの声とピアノの音だった。
 それを辿った先には純粋に、ひたすら音楽を楽しむ子どもたちと諒の姿があったのだった。

 

 
 速斗の過去の話をして、二人は日常会話に花を咲かせた。
 日常会話と言っても、ここではもっぱら音楽の話である。
 諒は学生時代言わずもがなからかわれた異質だったし、今はもう学生ではない。
 速斗だって家庭を持っているわけでもなければ、家計をやりくりしているわけでもない。
 だから自ずと話が音楽に向かう。
 諒は自分と対等に音楽の話をしてくれている相手がいることがとにかくうれしくて、なんとなくまだ夢物語の中にいるような気さえしていた。
 どの時代のあの作曲家のこのフレーズが好きだとか、あの曲の難しい箇所の指指番号や練習法など。
 それから練習時間の話をして、色々な話をしていくうちに二人は自然と打ち解けていった。
 ふと気が付くと速斗は敬語ではなくなっていたし、諒は仕事場では絶対見せない朗らかで活気にあふれた表情をしていた。

 一通り語り明かし、諒が用を足しに席を離れた数分間の間に速斗はカーペットの上で眠り込んでしまった。
 リビングの戻った諒は一瞬目を丸くしたが、速斗の眠りに就く速さに小さな笑みをこぼしてそっと速斗の腹元にタオルケットをかけてあげた。
 諒はふと掛け時計に視線を移すと、時刻は午前三時を回っていた。
「普通の人は眠い時間だね。ごめんね、つき合わせっちゃって。」
 そう呟き、諒は速斗のあどけない寝顔にちいさな謝罪をしたのだった。

 翌朝、諒はいつも通り六時に起床して家事を片付けていた。
 子どもたちが起きてくる前に箒で埃を掃き出し、雑巾がけをして、洗濯物を干し朝食の準備をする。
 今日は日曜日だから子どもたちはゆっくり八時を過ぎても寝ていて。
 ──そろそろかな。
 時計を見て諒は朝食の準備を始めた。
 ほどなくして、子どもたちがそろって起床。
 目をこすりながらリビングに入ってきた。
「おはよ…!?」
 二人の足が一瞬にして止まり、眠気が吹っ飛んだ。
 寝る前はいなかった男が、いきなりリビングで横たわっているのだ。
 無理もない。
「誰これ。」
「わかんない。」
 笑里の問いかけに、無意識ではあるが反射で答える諒人。
 二人を見るなり、諒は台所からできるだけ小さい声で声を飛ばす。
「しー。起こさないで。パパのお友達だよ。昨日お泊りしたんだ。」
 台所の諒に視線を移せば、そこにはとても純粋に嬉しさを笑顔ににじませた諒がいた。
 子どもたちは諒のそれを聞いて音もなく目を合わせた。
 今迄諒の口からは出なかった“パパのお友達”というフレーズが子どもながらにむずむずとして、なんとも言えず嬉しかった。
 いつもよりも少し浮かれている諒の背姿。
 子どもたちはそれが嬉しくないはずはない。

 

-ノンジャンル
-, , , , , , , , , ,


コメントを残す

おすすめ作品