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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

44口径より、愛を込めて episode32

   

 事件解決のため、ケンの友人である丸井の元に向かった陽太であったが、更なる事件が起きてしまう。

 本格ミステリー“44口径より、愛を込めて”

 

「日向野先生。頭、上げてください。そんな、私なんてまだ現実と対面出来ていません。以前、先生に松野さんの潔白を証明する為、協力して欲しいと言われましたが、未だに怖くて情報収集どころか、まともにニュースすら観れないんです。私は、ケンさんの集めた情報は勿論、陽太君がそんな状態だったって事すら、知りませんでした。陽太君は、ケンさんの一番近いとこにいて、ケンさんを慕う気持ちは誰よりも強い人です。また、ケンさんが陽太君を大切に思う気持ちも、本当の親子の様に絆深いものでした。だからこそ巻き込みたくなかった。また、妹さんの様に失いたくなかった。その結果、ケンさんは陽太君を突き放す形になってしまった。確かに、このケンさんの行動を考えれば、もしかしたらケンさんは何らかの強い情報を握っているのかも知れないと考えるのが道理です。そして、私達が狙われた。私達が、その情報に関する情報を託されているのかも知れない。そう思われるのも当然のことです。ですから、これ以上、謝らないでください」
 日向野先生が、下げたままだった頭を上げた。同時に、今度は私が深く頭を下げた。
「本当に、ごめんなさい。私は、ケンさんからも陽太君からも、何も知らされていませんし、何も託されてもいません。実際、捜査に関して、陽太君から今も以前も、何一つ聞いた事がありません」
 本当に私は、一番近くに身を置きながら、蚊帳の外に居たんだ。と、再確認した。
「以前、陽太君が力不足で申し訳ないと、私に謝った事があります。心から慕うケンさんに突き放され、それでも着いて行こうと、追い付こうと、少しでも頼りにして貰いたいと必死でもがき、辿り着いた場所にケンさんはおらず、自分の無力さを思い知らされる羽目になる。それでも、まだ彼は戦っている。私も、逃げずに……立ち向かいます」
 私は、再び溢れ出そうな涙を、ぐっと堪えた。
「魔夜ちゃん」
 日向野先生の、心配そうな声が呼んだ。私は精一杯の笑顔を作り、顔を上げた。
「こう見えても私って、強いんですよ!」
 日向野先生が、くすっと笑った。
「日向野先生。私はケンさんから預かったモノも託されたモノもありませんが、もし何か見つけたら直ぐ先生に報告します」
 日向野先生は「ありがとうございます」と言って、腰を上げた。
「くれぐれも、無理はしないようにしてくださいね。調査も、身体も」
 私は返事をし、日向野先生をお礼と共に玄関まで見送った。
 どれくらいだろう、多分三十分くらいの間。私が独りテレビを観ていると、携帯電話が鳴った。相手は、陽太君だった。
『魔夜さん、すいません。今日、俺、行けそうにないんで』
 陽太君の声は、動揺している様に震えていた。
「陽太君、どうしたの?」
 私は、テレビの音量を下げ、会話に集中する体勢を取った。
『ケンさんの友人の丸井寛巡査部長が、先程、搬送先の病院で亡くなりました』
 話が、解らない。
「どういう事?」
 私は、できるだけ落ち着いた口調で問うた。
『丸井さんとは、昨日アポイントメントを取って、昼前に会う約束をしていたんです。今朝は、いつも通り出勤されていたそうです。俺が署に着いた時姿はなく、同僚の方がトイレで丸井さんを見たと言うので、暫く待たせて貰っていました。けど、丸井さん全然来なくて、同僚の方がまだトイレにいるかもしれないからと見に行くと、丸井さん、トイレの個室で首を吊っていたんです』
 私が声を出せずにいると、ひと呼吸置いてから、陽太君は続けた。
『これから、司法解剖やら捜査やらなんやらで、連絡取りづらくなるかも。また折り返すんで、何かあった時はメールでも着信でも入れといてくださいね。また、俺からも連絡しますから』
 陽太君からの電話は、私の返事を待たずして切れてしまった。
 私は携帯電話を机の片隅に置き、深呼吸した。事件に関わった者が、一人ずつ消えていく。三流ミステリー小説みたいだけど、残念ながらこれらは現実の出来事なのだ。
 その、今まさに我が身に降り掛かっているこれらの事実の根本は、一体何なんだろう。ヘロイン密売事件? 殺人事件? コーラカル・アヂーン大量虐殺事件?
 色んな事がありすぎて、何がなんだか解らない。
 玄関のドアが鳴った。
「ただいま」
 大雅の声に気付いて、振り返る。きょとんと彼を見る私と、不思議な顔で私を見ながら靴を脱ぐ彼。無機質なアナログ時計の秒針音が、二人の間に流れている。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


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