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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

44口径より、愛を込めて episode35

   

 事件を終えて、魔夜は星に戻る事に戸惑うのだった。

 本格ミステリー『44口径より、愛を込めて』

 

【十七章:今更】

 翌日、陽太君からメールが来た。私達が拉致され襲われた倉庫内に陳列されていた車内から、44口径の未使用で綺麗な銃弾が見つかったと。しかも、銃弾にはケンさんと私の指紋が付いていて、それは私があの日、ケンさんと最後に会った日、貸し出したそれだと確認された。
 また、陽太君の手に渡った銃弾ことケンさん大明神も調べられたそうで、これは私が貸し出した物ではなかった。しかも薬莢の中には火薬ではなく、マイクロSDカードが入っていたそうだ。
 陽太君からのメールでは、ケンさんの今までの調査情報が詰まっていましたよ、と軽い報告があっただけなのだが、今までの事件を考えれば、これこそがまさに奴らが探していたものだったのだろうと、察しは付く。一応、どんな情報内容かと聞いてはみたものの、案の定、後日と返されてしまった。
 陽太君達に救出されたその日は、そのまま病院にて朝を迎えた。検査を終えた私を、廊下の長椅子に腰掛けて、陽太君は待っていてくれていた。大雅はと聞くと、緊急手術の最中だった。陽太君の家まで送るという申し出を断ると、私も長椅子に腰掛けた。陽太君は何も言わず、ただ寄り添うように私と並んで腰掛けたまま、いつもの様にくだらない冗談を言っていた。不安で押し潰れそうな私の心も、陽太君の御陰で潰されずに済んだんだと思う。結局、大雅が心配で、病院に泊まってしまったのである。
 外が明るくなり、人の気配が感じられる様になった頃、大雅の手術は終わった。命に別状は無く、傷跡は残るが後遺症の心配はありませんとお医者の先生が話すのを聞いて、陽太君は逃げるようにして仕事に向かった。
 そして、昼過ぎ。先程、陽太君からメールが来たのだ。私は、大雅の眠る病院のベッドの横で、彼の様子を見ている。麻酔が効いているのだろう、憎らしいぐらい穏やかな寝顔だ。
 そっと大雅の手を握ってみる。彼の温かなぬくもりが、私の身体をじんわり伝わっていった。私の名を刻んだブレスレットが、大雅の手首の上で、光を反射してキラリと光った。
 大雅の目が、少しだけ開いた。
「おはよう」
 私の声に反応する様に、彼の指が私の手を握り返した。
「もう少し、眠ったら良いよ」
 再び反応する様に、大雅はまた眠ってしまった。
 私は、大雅の入院準備をする為、一旦帰宅することにした。
 “なるべく、出歩かないでください”“人気の少ない場所には、行かないでください”“一人で出歩く時は、十分用心してください”“必ず行き先は、誰かに伝えてください”等。今まで強いられてきた約束事にも、これで開放されると思うと、見慣れた景色も何故だか新鮮に思えた。
 空が、青い。足取りは軽く、そして徐々に重くなった。もう藤代魔夜ではなく、神里星に戻るんだ。色々あったけど、私はやっぱり藤代魔夜である方が、幸せだった様に思う。
 このままで、居たいと思った。
 直ぐに引き払う事になるであろう、仮の仮のおんぼろアパートで、大雅の荷物をまとめた。引越しが頻繁で、ダンボールに詰めたままの荷物。片付けもその都度ダンボールに詰めて、普通じゃない生活をそれなりに楽しんでいた部屋。この部屋に思い出も思い入れもないのだけれど、独りでいるのはやっぱり寂しい。あの家、大雅と出逢ってからずっと生活してきたあの家を出る時は、どのくらい寂しいんだろうか。考えたくもなかった。
 病院への帰り道、少しだけ寄り道をする事にした。
 思い出した神里星の記憶の中にあるお店。事件前、父とよく行った場所。ムードもへったくれもないが、神里星が家族と住んでいた場所からさほど遠くもない距離にある、それ。目立たない場所にぽつんと佇む一軒と数えて良いのか迷う程の、こじんまりとした屋台のラーメン屋。少し塩気の強いスープが好きだった醤油ラーメンを、懐かしく思う。父と私と妹の三人で、年越しは必ずここで食べていた。
 確か、この角を曲がった筈だとうろ覚えの記憶を頼りに来てみれば、そこには真っ白い壁と赤茶色の可愛らしい、所謂、南欧風のお店が建っていた。
「いらっしゃいませ」
 中に入れば、ここはラーメン屋ではなくパフェをメインにしたカフェだった。フリルの可愛らしいメイド服を着たウェイトレスが出迎えてくれた。店内を見渡すと、若い女性やカップルで大いに賑わっている。
「……ここは、いつからあるんですか?」
 私の問いに、ウェイトレスは笑顔のまま答えた。
「昨年の十二月にオープンしました」
 何か、大切なものを失くした気がした。否、もしかしたら、“神里星”と言う存在自体が、夢だったのかも知れない。そう思った時だった。
「星、ちゃん?」
 聞いたことのある女性の声がした。
「知り合い?」
 続いて、側で聞き覚えのない男性の声が続いた。
「うん。ちょっと、待ってて」
 私は、声の方を振り向いた。
「やっぱり、星ちゃん」

 

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