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ラブストーリー

彼が泣いた夜

   

「別れよう」
 日曜の夜、雑誌から目を離さずにあたしは言った。

 ある晩、別れを切り出したあたし。
 彼・篤は動揺し、思わぬ行動に出る。
 別れるまでの決断と時間の流れ。
 別れたいのに、別れたくないような。
 そんなラブスートーリー。

 

「別れよう」
 日曜の夜、雑誌から目を離さずにあたしは言った。
 パソコンに向かうと篤はあたしの声が聞こえなくなるらしく、これは4度目に言った言葉だ。

「え?」
 篤がやっとパソコンから目を離した。
「本気か?」
「うん、本気」
 あたしと篤はやっと向かい合った。
 まともに顔を見るなんてお互い何ヶ月ぶりだろう。

「この前した結婚の話、まだ怒ってんのか?」
「それとは関係ないよ」
「じゃあ、何だよ急に」
 とすぐ子供みたいにすねて口をとがらす。

「急じゃないよ。前から言ってたけど篤が聞いてなかっただけ」
 篤は、平静を取り繕おうと、タバコに火をつけた。何か疑っているような目でこっちを見ている。
「別に好きな人ができたとかじゃないからね」
「……そんなこと言ってないだろ」
「……ならいいけど」
 篤はアニマルスリッパで室内をうろうろ歩きだした。

 窓際に立ってマンションから聞こえてくる子供たちの元気な声に「うるせんだよ」と目くじらをたてたり、
「明日もこれじゃ天気悪いな」とぼやいたり、
いつも聞いているラジオのDJの声が嫌いだと自分でつけたくせにラジオを消せと命令したり。

 今は爪を噛んでいる。
 それもダイレクトではなく、右手の親指から1本1本噛んで、ちょうどよく噛みそろえると、爪を口にくわえてプッと床にはき飛ばしたり、飲み込んだりしている。右手が終わるとそれは左手に移る。

 あたしは、台所に甘酒があったことを思いだして、立ち上がった。
「どこ行くんだ」
 と篤が小動物みたいな目をしておびえてこっちを見る。
「あのねえ。甘酒取りに行くだけ。飲む?」
「いらねえよ」
 力なく首をふりうなだれている篤を見て、不思議な気分になった。

 

-ラブストーリー


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