幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

見習い探偵と呼ばないで! Season8-1

   

 猟奇的殺人事件が報道された。全身を切り刻まれて腹部に刺し傷。だが死因は出血多量で亡くなっていた。

 氷室探偵が警視庁に手を貸している。探偵事務所の探偵たちは、ならすぐに解決する。と見込みを立てていた。

 絶対の信頼を寄せている氷室探偵。だが、別件の早期調査を同庁の上層部から依頼を受け、海外出張となる。

 引継ぎは火守探偵が抜擢された。氷室探偵の右腕と称される存在。

 もはや御影に出番はない。だからか気にとめていなかった。

 火守は単身、警視庁へ出向くと政木警部が出迎えた。犯人は逮捕したといわれ、火守の出番はなくなってしまった。
 しかし、犯人は否認している。そこで火守探偵は目を輝かせ、おれが来た、と胸を張る。

 状況証拠はすべて犯人を充分に示していた。

 尾澤 啓吾。氷室がにらんだ犯人だった。

 惨殺された岬 遼子は尾澤の恋人だ。六本木にそれぞれ別のマンションで暮らしていた。

 第一容疑者として浮上するのは当然の疑念である。

 だが、氷室でさえ予測しない事態に発展した。火守は疑いを持たなかった。なぜなら氷室名探偵の集めた状況証拠、信用に値する。
 火守は確信していた。尾澤が犯人であると。

 しかし、それがすべて覆ってしまった。

 

 岬 遼子(みさき りょうこ)、27歳が港区六本木のマンション、10階の2DKに住む派遣社員が今朝、知人が訪問したところ遺体で発見された。一人暮らしのため──

 ニュース番組で報じられた猟奇的な惨殺事件の幕開けだった。

 被害者は全裸の遺体で全身切り刻まれていた。だが死因は出血多量で亡くなっていた。

 犯人は捕まっていない。

「おそろしいな、この事件は」御影は探偵事務所の3階探偵デスクで待機していた。

「たしかに、こういう事件は猟奇的な犯人か、もしくは──」考えるがほかの要素が見つからない川上探偵だった。

「もしくは顔見知りの怨恨の線でしょ」水桐がでしゃばった。

「そうでした」川上が笑った。

 その場には探偵たち全員が集まっていた。森谷もいる。大地もこそこそ隠れていた。雲田はイヤホンをつけてなにかを聞いている。おそらく盗聴だろう。火守はパートナーの斉藤とミーティングでもしているのか、真剣な話をしていた。

「火守くんと斉藤くんが3階にいるのはめずらしいね」森谷がいった。

「そういえばそうね、斉藤さんはいつもなら2階の事務のオフィスにいるはずだもんね。3階にはこない」水桐がいった。

「仕事のときまでラブラブですか」イヤミったらしく川上がいった。

「なに妬いてるのよ」水桐がいった。

「妬いてるわけじゃないさ」川上が反論した。

「こら、ふたりともそんなことで諍いをしない」森谷が注意した。

「でもさ、この事件、犯人は捕まるのかな」御影はいった。

 一瞬だが、探偵が思考力を働かせるため静寂が包んだ。

「その事件、裏で動いている探偵がいる」雲田が唐突に話題にメスをいれる。

「どういうこと?」水桐がいった。

「裏で動いている探偵ってだれですか?」川上がいった。

「氷室さん」大地がぼそっといった。全員の視線を集めた。

「そうなんだ、でも裏ではなく表だろ、氷室さんなら」御影が訂正した。

「まぁ、そうだな。警察の協力助言指導捜査顧問探偵ともあれば」雲田いった。

「そんな役回りなの、氷室さんて、てかすげー肩書きですね」森谷に御影がぼやいた。

 森谷はうなずいた。「そうだな」

「たしかに、協力、助言、指導、そんなんじゃ裏の存在といわれるのはしかたがない。主役ってはっきり銘打たないのは謙虚さかな」御影は崇めるようにいった。

「あーあ、氷室さんが関わっているなら、どうでもいいだろ」川上がいった。

「不謹慎でしょ、そういう言い方」水桐が呈した。

「いや、そういう意味じゃなくて、もう解決したようなものでしょ」

「そういうことね」

 水桐も川上も信頼を寄せている。氷室探偵とはそういう存在である。

「残念だな、諸君」火守が唐突に演説した。「この事件に関しては、このわたし氷室探偵の右腕、火守 透(カガミ トオル・28歳)が受け持つことになった」

 言葉を失った探偵たち。

「なんだ、羨ましいのか、あん?」

「マジで、あんたがやるの?」川上がいった。経験としては火守の方がある。

「そうだ、文句あるのか」

 外見は甘いルックス、赤茶けた髪はゆるーいパーマをかけている。白い肌に細めの体形で180センチある。
 格闘戦術を心得て、御影はおろか氷室の次の実力者である。

 要するにいけ好かんタイプだ。A任務専任者であるから、氷室の代任として抜擢されたのだ。

 事務員の斉藤 綾香が恋人。交際歴三年目という。

「これは氷室探偵直々のご指名よ」小柴が現れた。「氷室さんは容疑者を見つけた。だが、別件の重要な任務を警視庁の上層部から依頼があって、海外出張しなければならないため代わりに氷室さんの右腕、火守探偵に任されたのよ」

「そうなの──」川上はそれいじょうの言葉をだすことはなかった。

 ほかの者も押し黙った。

「ではいってきます」ご満悦に微笑む火守だった。

 どうやら斉藤とミーティングしていたのはその話だったようだ。

 氷室からの引継ぎをしていたのだろう。

 御影は炭酸の抜けたサイダーのように、急に冷めてしまった。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

見習い探偵と呼ばないで! Season8 <全9話> 第1話第2話第3話第4話第5話第6話第7話第8話第9話

コメントを残す

おすすめ作品