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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

44口径より、愛を込めて episode37

   

 陽太の口から、事件の全てが語られる。

 本格ミステリー『44口径より、愛を込めて』

 

「そこで、事件が麻薬密売だけでなく、殺人事件が絡む事となり、警察の仕事として流される事になったんです。でも、それじゃぁ、俺が納得出来なかった。俺自身で、ケンさんの仇を取りたいと思った。マトリを辞めて警察に転職してもいい。そのくらいの覚悟がありました。だけど、それじゃぁ遅すぎる。だから、後輩の塚田に頭を下げたんです。そして、塚田を軸に俺が調査をする事にしました。基本は、ケンさんの集めてきた情報データを探すという名目で、更なる情報を集めていました。そして、先ずは例の三人から整理する事にしたんです」
 例の三人。政治家の坂下勝次、坂下の秘書の色摩太朗、暴力団組長の賢木田雄也だ。
「試しに、事件に関係する今までの調査内容ではなく、三人のプライベートについて調べてみたんです。すると、日向野は以前、賢木田の主治医だった事が判明しました。そして色摩については、レンタカー会社の会員となっていて、時々車をレンタルしていたようなんです。本当に、聞き込みが主にでしたから、これだけ調べるのにも苦労させられました。ですが、これで調査範囲をかなり絞り込む事が出来たんです」
 少しトーンの明るくなった、陽太君の声。ふと顔を上げると、少し離れた先に自販機が見えた。よく見ると、その隣に建物もあり、それは小さな公衆トイレのようだ。
「陽太君、何か飲み物買ってくる」
 私は返事も待たずに車内を出た。少し、身体を伸ばしたかったのだ。外の空気は、少しだけひんやりとしていた。気持ちもどことなく冷静で、この先の話も聞いていられそう。私は缶珈琲を二個買い、車内に戻った。
「続き、お願いします」
 と、陽太君に缶珈琲を渡した。
「先ず、俺は日向野と賢木田との関係についての調査から始める事にしました。賢木田は以前、胆石の手術で日向野の病院に入院、通院していたようです。主治医は日向野、その際担当していた看護師は松野婦長でした。松野婦長が不在の時は別の看護師が担当していた様ですが、こちらの看護師は結婚の為、既に病院を辞めていますし、県外に引越ししています。一応調べてはみましたが、この事件とは無関係と断言していいでしょう。そして、ヘロイン流出が目立つようになったのが、賢木田が退院、通院を終えてから一ヶ月以内。松野婦長は仕事熱心な人で、通院を終えてからも、賢木田の体調を気遣ったりと、個人的な接触を続けていたようです。ここまでの情報で、俺は日向野と松野婦長に目を付けました」
 陽太君が、缶珈琲を開けた。そして、一口飲んでから話を続けた。
「日向野と松野婦長は、恋愛関係にあった。と、証言する者もいました。そこで、松野婦長と最も親しい友人を探し出し、聴取する事にしたんです。友人曰く、松野婦長は日向野に好意を持っていたそうです。日向野はよく松野婦長の家にも出入りしていたようですし、合鍵を渡すこともあったそうです。はっきり告白されたとは聞いていませんが、付き合っているんだと思っていた、とその友人は言っていました。実際、結婚したいのだという相談を、何度も受けていたそうです」
 私も缶珈琲を開け、一口飲んだ。陽太君の話を、私は黙って聞き続けた。
「今度は、今までの警察の調査情報も含め、再度病院を調べてみることにしました。まず、長期に渡り、ハロタンが微量ずつ減っていることが多々ありました。以前は麻酔薬として使用されていた薬品ですが、現在は身体への影響が強いとかで、殆ど使用されていません。麻酔の一部として使用したと記録してありましたが、実際誰にどのように使ったかを調べてみたところ、はっきりと出てきませんでした。ですから、塚田の事故は、事前に計画されたものだと判断しました。更に調査を進めて行くと、病院のゴミからホームセンターのレシートが二枚発見されている事が解りました。一枚の印字日時は、塚田の事故より三日前。内容は、携帯用加湿器と他、日用品。歯ブラシやトイレットペーパー等です。もう一枚の印字日時は、魔夜さんの塩素ガス事件の一週間前のものでした。内容は、ドライバー、小型ガスボンベ、洗剤、漂白洗剤、他日用品。掃除用スポンジやゴム手袋、バーベキュー用の炭や網等でした。どちらのレシートからも、日向野と松野婦長の指紋が検出されていたんです」
「松野さん」
 ぽつんと、私の口から名前が、溜息の様にこぼれ落ちた。

 

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