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ノンジャンル

占われた人生

   

堀内は強烈についていなかった。少なくともそう思い込んでいた。

堀内は不運の原因を「名前」だと思っていた。堀内の両親が名付けの参考にした姓名判断の本に乱丁があり、「最良」のつもりで「最悪」の名前を付けてしまったからである。

悪いことに、堀内の住んでいる島の地区政府は戸籍の変更を厳禁する制度を取っており、原則的に出生時の名前を変えられないようになっていた。

そのため堀内は、就職にあたりペンネームが通じる漫画家の道を選ぼうとしたが、訓練も経ていない上に不器用とあっては受賞は遠く、満足に職に就けない状況に陥っていた。家を空けている間に隕石のような何かが落ちてきて、家が焼けてしまうという不運にも見舞われた。

そんなある日、「中央」から、TV番組の司会者を名乗る紳士がやってきた。彼は、堀内の「強運」を聞きつけ、番組出演を持ちかけてきたのだった。堀内が示した条件も司会者は簡単に受け入れてくれたため、スタジオまで行って番組を見ることになったのだが……

 

「や、やっぱりこうなっちまうのかっ!」
 堀内は街道沿いで、星のようなものが浮いた空を見ながら叫んだ。
 両手に下げていたビニール袋を持つ余裕などなく、辺りには買ったものが散乱している。
「ちいっ」
 駆け出そうとした堀内だったが、両肩にかかる強烈な圧力が動きを阻んだ。
 堀内の両親と弟が、彼の体にしがみ付いていた。皆鬼気迫る表情である。
「親父っ、離してくれっ!」
「駄目だっ、間に合うもんか! 三分、いや二分はかかるんだぞ。周りに誰がいるわけでもねえ」
「俺はどうなるんだよ! 二年かかったんだぞ。金を貯めて器材を揃えるまで」
「命の方が大事だろうが!」
 決着のつきようがない言い争いが続く。
 しかし、三人に体をがっしりと捕らえられては、堀内には身動きなど取れようもなく、だが諦めることなどできなかった。
 何しろ、空に見えるものは、隕石のような落下物であり、まるで意思を持っているかのように堀内の「家」に迫ってきている。
 使われなくなった山小屋を改装したものだけに、周囲数百メートルには人の気配がない場所だが、落下物が直撃すれば、堀内の住み家は完全に破壊される。
「そうだよ。兄ちゃんラッキーだったんじゃないか。いつもの『眼』で避け切ったんだからさ」
「慰めなんかいらねえよ!」
 なだめる弟に、堀内は叫んだ。
 宇宙から大気圏を通過し、異物が落ちてくると言うのに、島の様子には変わったところはない。
 実際空を見上げても、異変に気づける人間はいないだろう。
 堀内は、生物学的な視力とは別に、感覚器的な「眼」を持っていた。
 その場所で何か悪いことが起こる場合、肉眼で捉えられないタイプの「色」が出てきて、危険を堀内に伝えてくれるのである。
 他人が聞いたら羨む能力だろうが、堀内はまったくいい目を見ては来なかった。
 大金を拾ったこともなければ、心が洗われるような光景に直面したこともない。
 逆に、不幸には何度となく直面している。
 今日のように力を活かして回避して来なかったら、もう五十回は死んでいるところだろう。
「く、くそっ、どうして俺ばっかりなんだよ!」
 堀内が叫んだところで、どかんと音がして、地面が揺れた。
 家の屋根の一部が吹き飛び、外からでも中が分かるほどのダメージが確認できた。
 もっとも、隕石には火が付いている。
 乾いた廃材で作った納屋を燃やし、周りの雑木を軽く延焼させるまではその場に近付くことはできないだろう。
「まあ、良かったじゃないか。家に戻って、しばらく休むといい」
「そうそう。徹夜続きだったんだろ、兄ちゃん。バイトには俺が出ておくから、のんびりしているといいよ」
 家族の温かい言葉を聞きながら、堀内はその場に立ち尽くしていた。
 普通乗用車を改造した小型のポンプ車が、何かの義理を果たすような感じで、遠くからサイレンの音を鳴らしてきていた。

 

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