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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

44口径より、愛を込めて episode38

   

 事件の真相は、尚も続けられる。

 本格ミステリー『44口径より愛を込めて』

 

 私の頭に、疑問が過る。
「車があるのに、レンタカー借りるの?」
 陽太君が、少しだけ含み笑いを見せた。
「勿論、遠出するのに楽だからとか、人数を乗せるのに必要だという理由で、普通自動車をレンタルする人はいます。ですが、色摩のレンタル履歴と軽自動車購入履歴から計算すると、普通に使用するなら普通車を購入すべきだと言いたくなる様な金額になりました。経済的でもなんでもなく、単に理由があってそうしているとしか思えないんです。軽自動車を年に六台は購入して、即ネットオークションや知人に売っているんですよ。実際儲けているのかと思うと、ほぼ同等かそれ以下の金額しか貰っていなかったそうです。確かに、軽自動車なら委任状と住民票さえあれば、簡単に名義変更登録が出来ます。ですからそれで副業を、と思えば納得出来る部分はあるのですが、実際儲けていないのだから疑問が残る。この件について色摩は、賢木田の店と知らず、従業員に友人が居るので、頼まれて購入しているんだ。と答えています」
「それにしても、六台って。異常でしょ。それに、坂下と賢木田が直接的に動きを見せていないのも気になるわ」
「そこです。ですから、ずっとモヤモヤしていました。それなのに、犯人として突き付けるのに十分な証拠を持つ人物が、松野婦長しかいないこと。仮にこの中に犯人がいるとして、一番疑わしいのは色摩です。ですが、火のないところに煙が立つはずがない。だから、ずっと事件は解決してないと思っていました。故に、魔夜さん達を自由にする訳にはいかなかった。俺の仮説通り松野婦長以外が犯人であるなら、魔夜さん達が狙われている状況は変わっていないのだから」
「でも、結果として日向野先生は逮捕された。それから、坂下、色摩、賢木田も」
 陽太君が、静かに頷いた。
「その前に、自殺した丸井さんの件から、お話しましょう。過去、丸井さんは慢性膵炎で、日向野の病院に入院していたそうです。以来、通院もしていました。主治医は日向野、担当の看護師は松野婦長。丸井さんは、最近では特に出世について酷く悩んでいたそうです。それに、多額の借金もありました。遺体からヘロインが検出されましたから、借金の原因は恐らくそれでしょう。ケンさんに、坂下と賢木田の密会をタレ込んだのも丸井さんでした。そうなると、丸井さんは坂下に、恨みがあったんでは無いかと思ったんです。ですから、俺は二人の関係を調べました。坂下は色摩の前に秘書として、十年程前、丸井さんの奥さんを雇っていたそうです。それが、一年半で解雇。その上、同時期に丸井さんも離婚しています。当時、家政婦をされていた方を探し、事情を聞きました。坂下と丸井さんの奥さんは、不倫関係にあったそうです。離婚は、それが原因だと。そして、奥さんの他に娘さんが一人いるそうなんですが、現在は二人共坂下の愛人とその子供として、何不自由無い暮らしを送っているそうです。丸井さんに対する、人質の意味もあるのでしょう。奥さんはともかく、生前は娘さんの事を物凄く気にかけていたそうで、会えなくとも可愛くて可愛くて仕方の無い愛娘だったと言う事でしたから。色摩の代わりに賢木田の車屋に車を引取りに行くことや、坂下の運転手として使われることもしばしばあったそうです。また、半年に一度程、色摩から軽自動車を購入していたとも。丸井さんも色摩同様、購入後即、近くの中古車店で売っていたようですけど」
「脅されていたってこと?」
「恐らく。慢性膵臓炎の辛さと精神的苦痛から、ヘロインに手を付けてしまったのでしょう。強い鎮痛効果から、モルヒネに手を出す者は少なくないのですが、ヘロインとなればその四倍から八倍の効果が得られる。それ故、依存性は高い。そして、多額の借金。俺が丸井さんに会いたいとアポイントメントを取った事が、丸井さんにとって潮時となったのでしょう。彼は、自殺してしまった」
 私は、同情した。丸井さんは、運が悪かった。と、言ってしまうには酷すぎるが、そう表現するしか無いくらいに。
「そして、丸井さんのアパートからも松野婦長と同様に、例の倉庫の鍵が発見されました。あの倉庫、一体何なんだろうと思って持ち主を調べてみたところ、二十年くらい前に倒産した会社のモノみたいです。代表取締役が夜逃げして、そのまま放置されている廃倉庫でした。まぁ、責任者は蒸発して行方不明なんで、この件とは関係ないと警察も判断したんでしょう。俺もそう思うし。こう言う物件を放置するから、何かと問題が起きるんですよね、全く」
 陽太君が軽く伸びをした。私も、続いて伸びをしてみる。
「魔夜さん、疲れていませんか?」

 

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