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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

44口径より、愛を込めて episode40

   

日向野から聞かされた過去は、悲しくも歪んだものだった。

 本格ミステリー『44口径より、愛を込めて』

 

 陽太君の声と同時に、道の向こうから明りが射した。私の足は、明るみに飛び込み止まった。
 思わず、息を飲む。
「今日は、天気が良いから。きっと、一番良い景色が見れると思ったんです。俺の秘密の場所ですよ」
 遮るものは、何もない。ただ、申し訳無さ程度に作られた木製の柵があるのみで、目の前には静かな海と空が広がっていた。漆黒には、金の影を落とした白い月が僅かに揺れているだけ。まるで、そこにはもう一つの空があるよう。少し視界を広く取れば、目線は空に吸い込まれる。本物の月は白く笑い、満天の星が月を称える。白く流れるそれは、天の川。
「何億年も前から、海も空もきっと変わらない。人間がどんなに頑張っても、それを超えることは出来ないと思う。本当に、俺等はちっぽけだって、思いませんか?」
 私は、目を閉じた。優しい風が頬を撫で、苦しみも悲しみも拭い去ってくれる様に思えた。
「独りぼっちになっても、空や海だけは、見守っていてくれる様な気がするんです。俺も、そんな存在になりたい」

 ケンさんの、声が聞こえた。

“魔夜ちゃん。いつまで、泣いているんですか。いつもの様に、笑ってください”

 それは、風に乗って、遠い空の彼方から運ばれて来た。

“陽太。今まで、良く頑張ってくれたね”

 そして、再び、風に乗って空の彼方へ消えていった。

“本当に、ありがとう”

「陽太君。今、ケンさんの声が聞こえた気がした!」
「俺もです!」
 二人して、無我夢中で叫んだ。
「「ケンさーん!! ありがとう!」」
 その一言しか、思い付かなかった。
 その一言しか、届かない気がした。
 そして、気付けば陽太君と二人、号泣していた。お互いを支えるようにして、その場に泣き崩れ、大声を張り上げて。
 海の音は静かで、時々木々のざわめきがあるくらい。二人の泣き声は夜空を突き抜け、海の向こうにまで響いている気がした。

 これで、最後にしよう。

 この件で、私が泣くのはこれで最後だ。共に、泣いてくれる人がいる。同じ声を、聞ける人がいる。それだけでも、十分幸せじゃないか。
「陽太君。私……、私、まだ選べない。陽太君も、大雅も……。だから、一人で少し頑張ってみる。冷静に、自分の気持ちと向かい合えるように……気持ちの整理が付くまでの間、見守っていてください」
 陽太君は、泣きながら、私の頭を撫でてくれた。
 とても優しくて、温かい掌で。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


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