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SF・ファンタジー・ホラー

ウパーディセーサ〈九〉

   2016年3月4日  

 ジワジワとあぶら汗が全身から吹き出した。これが僕の幼い頃の記憶なのか? 僕には憶えが無かった。でも僕は泣いていた。懐かしい幼き日の僕の部屋で。するとこれは赤いランドセルの女の子が倒れた後の記憶のはず。確か幼い僕はこう言っていた。

 

 
「どうした? 映像が乱れたぞ?」
「あぁ。夢が終わったんだ。もうすぐ目を覚ますだろう。まぁ、一回目にしては上出来だ。後は少し解析度をあげるようにすればいいんじゃねーか?」
「眇寨君の夢はやっぱり複雑なのね。幼い時に負ったトラウマなのかしら」

 うっすらとまぶたをあけると白熱灯の眩しい光に三人の誰かが僕を覗き込んでいる。朦朧とした意識の中で微かに聞こえていた話し声。僕は記憶を辿り、一体なにがあったのか思い出していた。確か、ワインを飲んでソファーに座って寝てしまったのか。ここは一体どこなのか? うーん、と伸びをしてゆっくりと起き上がる。後頭部に嫌な痛みを感じた。飲み過ぎたのだろうか、まだフラフラする。

「おぉ、眇寨。起きたか? 気分はどうだ? まだ酔っ払ってるみたいだな」
 宮守は少し楽しそうに僕の肩をバンと叩いた。その衝撃で脳みそがグルんとまわり、吐きそうになった。
「うぅ……ちょっと二日酔いみたいです……それよりみんな何してたんですか?」
 まるで病院の様な部屋に病室の様なベッド、病棟の様な白い壁。頭に巻きつけられた何か。状況がいまいち把握出来なかった。
「前にお前が言ってた、夢を映像化する機械だよ。試作段階だったんだが試してみたくってよ。問題なさそーだぜ」
 コンピュータをいじりながら平山が言った。
 成る程。もう装置が出来たのか。僕はどんな夢を見ていたのだろう。いや、まてよ。そんな事より……
「実験するなら言って下さいよー。こんなやり方しなくっても。ビックリするじゃないですか!」
「おっ! 眇寨が怒った! だから言ったろう、ちゃんと説明してからするべきだって!」
 宮守はやはり少し楽しそうに平山に言った。
「こいつA型だろ? 見るからに神経質そうだ。そんなやつに、寝ろ! コク! ってなるわけねーだろ? これは俺なりの配慮だ!」
 言い切った平山が少し頼もしく見えた。が、きっと僕が酔っ払っている時にたまたま装置が完成して、すぐに試したくなっただけだろう。
「まあまあ。でも眇寨君、見てた夢、覚えてる?」
 誰よりも、鏡は僕の事を心配してくれているみたいだ。
 そうだ、どんな夢を……いや思い出せない。
「ごめん。全く覚えてないよ。鏡は、皆は観たの?」
「おう、バッチリ見れたぜ! 人の夢が観られる世界になったんだな! たまにノイズみたいなもんがバシッといったがな」
「観られる世界になったんじゃねーよ。観られるように俺がしたんだ」
 だからさっきから宮守のテンションが高かったのか。でも自分の夢がどんなものだったのか、とても気になる。とても気になるが何かとても恐ろしい気もする。しかしきっと僕の思い出せない記憶に関係あるはずだ。
 僕がここでしなければいけないことは、それを思い出す。ということもあるんだから。
「平山さん。僕にも見せてください」
「ああ。しかしお前の夢なのにお前にとっては初めて見る物なんておかしな話だな」
 カタカタっとコンピューターを操作し、前のモニターに映像を映し出した。始めは砂嵐の様な映像から、ゆっくりと背景が浮き上がってきた。
 白黒で時代を思わせる無声映画の様な感じだ。ノイズがフィルムの影の様に見え、8ミリカメラで撮影したみたいなレトロ感が溢れていた。色がないのだが、夕日の感じがよく伝わってくる。
 映像はおそらく一分位の物だった。しかし僕にとっては一時間に感じた。
 ジワジワとあぶら汗が全身から吹き出した。これが僕の幼い頃の記憶なのか? 僕には憶えが無かった。でも僕は泣いていた。懐かしい幼き日の僕の部屋で。するとこれは赤いランドセルの女の子が倒れた後の記憶のはず。確か幼い僕はこう言っていた。

(僕…ひどいことしちゃんたんだ…仲良しの子に…悪い事…もうゆるしてもらえないかも……)

 

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