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ノンジャンル

告白

   2016年3月9日  

 仁斗からの言葉にショックを受けつつも、それにうっすらと気付いていた速斗。
 喧嘩になりつつ家につき一触即発になりかけたその瞬間、家から出てきた母静果から家の中にしょっ引かれた。
 家の中に入ると速斗は自室にこもり、仁斗と話をしようとはしなかった。その様子を見ていた優菜は自分の部屋に仁斗を招き入れ、今まで見てきた“すべて”を語り始めたのだった。

 

 
 仁斗からの宣告は、速斗の心のぐっさりと突き刺さった。
 でも涙は出なかった。
「…わかってたさ。俺の音楽に先がないことくらい。」
 自嘲する弟の表情は、仁斗が今までに見たことのない切なげなものだった。
 それを目の当たりにした瞬間、悪い空気の流れに仁斗が気づく。
 ──違う!違うんだ速斗!
 ずっと自分の背中を追いかけていたはずの速斗が、急に遠くに感じる。
「俺と仁斗は性格も体格も何もかもすべてが正反対でしょ。どんなに文句を言われてなじられても、仁斗は“自分”を持ってるしそれを曲げない。本物の芸術肌なんだと思う。俺は相手に求められたものを、相手の好みに変えて提供する事しか出来ない。俺には貫き通す“自分”がない。」
 速斗の言っていることは、間違っていない。
 どんな状況下でも個性を貫く仁斗は、根っからの職人気質である。
「そう思うなら、なんでお前は“自分”を持たないんだ。なんで…!」
 もっとどん欲に自らの欲求を表し、もっと自分勝手に生きていけばいいじゃないか!
 自覚があるならどうしてあと一歩を踏み出さないんだと、歯がゆくて仁斗は速斗に怒鳴る。
「持ってると辛いから。未来のことを思うより、今目の前にいるお客さんのニーズにこたえる方が気が楽なんだ。」
 ニコリと仁斗に微笑みかけて、速斗は仁斗を置き去りにして速足で家に向かって歩き始めた。
「待てよ…、速斗っ!おいっ!」
 仁斗の制止に耳を傾けることはなく、速斗は歩調を早めていくばかりだった。

 一度も仁斗の方を振り向くことなく、家の前までたどり着いた。
 高くはない家の前の門の取っ手に手をかけた瞬間、仁斗の大きな手が速斗の肩をつかんだ。
「待てって言ってんだろ…。」
 仁斗の低い声は、怒りに満ちている。
 ほんの少し仁斗の息が弾んでいる。
「…離して。家に入れないだろ。」
 それでも速斗は振り向かず、仁斗の手を肩からふるい落とした。
「速斗!」
 怒鳴り散らしながら速斗の腕を力任せに引っ張り、無理やり自分の方を振り向かせた。
「なんなんだよ!こんな時ばっか兄貴面しやがって!俺には先がないんだろ!?もうほっといてくれよ!」
 速斗の怒声が、静まり返った住宅街にこだまする。
「クソガキが!自棄になってんじゃねぇよ!」
「自棄にならなきゃやってけねんだよバカ仁斗!俺の“夢”を根こそぎ奪っといて、いまさら何言ってやがんだ!」
 胸ぐらを掴みあい、一触即発の男同士のけんか声。
 二人ともに、相手を容赦なくにらみつける。
 ──お前に俺の気持ちはわからない…!
 二人の抱く“思い”に違いはあれど、今脳内を占拠していることは同じである。
「言いてぇことがあんなら」
「続きは家の中でやんな。何時だと思ってんだい、あんたたち。」
 がっしりと双方の後ろ首を彼女の手が鷲掴みにし、そのまま男浸りの首根っこをひっとらえたまま南野家の玄関へと二人は引きずり込まれていった。

 

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