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星座アラベスク<2>おうし座(上)

   

 おうし座の人は、現実的でねばり強い性格を持っている。
 おうし座のラッキー・ジュエルは翡翠。

 

 黒塗りのベンツは、永田町を出て川崎へと向かった。
 広い後部座席に一人で座っている豊成富士子は、ぼんやりと外を眺めていた。
 大都会の夜は、クリスマスのイルミネーションに輝いている。
 運転する議員秘書が声を掛けた。
「すみませんね。一時間も超過してしまいました」
「いいのよ」
「ウチのボスは、先生にご相談すると、どうしても長くなって……」
「国を動かす話だから、長くなっても仕方ないわ」
「そう言って頂くと助かります。ウイークエンド相談の時間に、遅れませんか?」
 豊成富士子は、バックミラーを通して議員秘書の目を見て、柔らかく答えた。
「あなたの運転なら、大丈夫。間に合うわ」

 豊成富士子の前半生は、悲惨の一言に尽きる。
 小学校へ入る直前、両親は交通事故で死んでしまった。
 豊成富士子は、親戚の家をたらい回しにされて育った。
 親戚は、自宅の中に小さな工場がある、といった家内工業を営む家ばかりであった。
 学校にも満足に行かせてもらえず、金のかからない労働力として、働かされていた。
 豊成富士子は、笑顔を知らない子供として成長を始めていた。
 小学校五年生の時のことである。
 早朝、豊成富士子は、家の前の掃除をしていた。
 誰よりも早く起きて掃除をし、食事の支度をすること、これを命令されていたのだ。
 ふと道路を見ると、雀が死んでいた。
 雀のつぶらな瞳は、何も見ていない。
 豊成富士子は、雀を抱き上げた。
 涙がこみ上げてくる。
「何、泣いているの?」
 声を掛けたのは、同じ町内に住む薬師寺正次であった。
 豊成富士子と同い年の少年である。
 顔は見知っていたが、これまで、ほとんど話したことはない。
 なにしろ豊成富士子には、遊ぶ暇などなかったのである。
 薬師寺正次は、豊成富士子の手の中を見た。
「雀が、死んでいたんだね」
「うん……。かわいそう……」
「二人で、お葬式をしてあげよう」

 

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