幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

SF・ファンタジー・ホラー

ウパーディセーサ〈十二〉

   2016年3月14日  

 大丈夫だよぉ。聖埜君は人間なんだ! 生きてるって事はそういうことさ。だから涙は流せばいいんだ。流れ出るままに、溢れ出る声をおしこらえる必要なんてないんだよ。ね、聖埜君……

 

 
 シャワーの手の平程ある大きな蛇口をひねると、なんとも心地よい適温のお湯が体にかかった。俺は入念に髪、顔、体を洗い、自分の肌がこんなにも白い事に驚いた。いよいよ湯船に浸かれる。ゆっくりと爪先から入水し、腹の辺りまで浸かった瞬間、なんとも言えない安堵のため息がこぼれ出た。拾った漫画なんかで、オッサンが温泉に浸かって「極楽じゃぁ~」なんて言っているが、嗚呼。極楽だ。
 壁のタイルに何やら緑色のボタンがあるのに気が付いた。大中小の円がランダムに羅列された模様のボタンだ。何だろう? と思いつつ、俺の人差し指はその緑色のボタンに伸びていた。
 ゴゴゴ、と地響きの様な音が鳴ったと思えば、数秒後、湯船の底から空気がゴポゴポと吹き出し、湯面はマグマの如く呼吸を始めた。柄にもなく俺は「ひゃっ!」っと女の様な声をあげてしまった。しかし、そのマグマの心地良さに呆気なく俺は負けた。
 暫く湯に浸り、マグマに揺られながら白い天井を見上げ、何も考えていない事を考えていた。そんな中で脳裏を右から左へかけ走る、一つの言葉が気になった。

(聖埜君《せいや》……)

 風呂から上がり、真っ白の柔らかいタオルで体を拭いていると、洗面台の所に着替えらしき下着と洋服が置いてあった。
 いつの間に置きやがったんだ、と思いつつもそれらに袖を通し鏡を見た。
 似合ってないな。サイズだって少し大きい。でもなんだか、表現できないよく分からない気持ちがした。風呂場を出て、居間へ向うと平山はソファーに横たわり茶色い酒を氷で割ってちびちび飲んでいた。
「やぁ、湯加減はどうだったかい? サッパリしたみたいだね。いい顔をしているよぉ」
「いやぁ、マグマにはびっくりしちまったぜ。あと、なんなんだよこの服。ダセェしでけぇし」
 ダサいとまで言うつもりは無かったが、ついいつもの癖で口走ってしまった。
「いやぁ~ごめんごめん! それは僕のお下がりだからねぇ~」
 成る程。だからか。いや、そんな事よりも聞かなければいけない事があったんだ。
「なぁ、オッサン。聖埜っていったい誰の事なんだ……」
 俺が話している間を割って、平山が言った。

 

-SF・ファンタジー・ホラー
-, , , , ,


コメントを残す

おすすめ作品