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SF・ファンタジー・ホラー

ウパーディセーサ〈十三〉

   2016年3月16日  

 曇った朝空にぼんやり浮かぶ下弦の月が泣いている……

 

 
 精神医療の本を読んでいるうちに、自分が飲んでいる薬が何なのか解ってきた。
 先ず、朝晩二錠ずつ飲んでいるのが、バルプロ酸ナトリウム。この薬は脳の神経を静め、重度の躁状態への進行を阻止する作用がある。確かに言われてみれば、妙に気がたっていたり、はしゃいだりしていた自分は躁であったのだろう。
 双極性障害には炭酸リチウムを使う事が良く知られているだろうが、俺には全く合わなかった。飲み始めて一週間、指先から足先まで震えだし、呂律が回らなくなり、俺の中の自分が二人に分かれ喧嘩をし始める。果てには錯乱状態になってしまい、バルプロ酸ナトリウムへの変更を平山が勧めた。
 次にアリピプラゾールだ。この薬も同様、躁を抑える薬であると共に鬱状態の改善にも用いられる。しかし、これらを服用した俺は躁状態になる頻度は減ったものの、めっきり鬱状態が続くようになった。
 夕食時に戻ってくる平山の背中を見ていると、自分がちっぽけに感じる。何か手伝わなくては……と思うのだが、体が動かない。それでも平山がヘラヘラと朝飯の準備をして地下の研究所に戻ってゆく。自分には何も出来ない、なんの意味もないんだ。

 曇った朝空にぼんやり浮かぶ下弦の月が泣いている……

 だんだんと眠ることも出来なくなり、余計な事ばかり頭に浮かぶ。過去……思い出したくない思い出……いや、しがらみ……変えられない現実。
 そんな俺を見越して平山は俺に睡眠導入剤の量と種類、そして新しい薬を増やした。
 睡眠導入剤、いわゆる〝眠剤〟にニトラゼパムを二錠、ベゲタミンBを二錠、そしてゾルピデム酒石酸塩を一錠。そこへもう一つ新たに投入されたのがオランザピンである。
 これら全てを夜に一気飲みだ。九錠もの赤と白の錠剤は、俺を夢の天国、否。夢の地獄へ引き摺り込んだ。意識が落ちるとはこの事だ。ぐらっとした揺れと共に周りに陸なんて無い。濃紺の海のど真ん中へ真夜中に放り出される感じだ。恐怖と焦燥の中、それでも俺は久々に眠れた気がした。
 鬱と躁、両方に作用するオランザピンは暫くの間、俺に平穏を与えてくれたが……空腹感がいつも俺を支配していた。そのおかげて俺は十キロも太ってしまった。

 

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