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SF・ファンタジー・ホラー

ウパーディセーサ〈十六〉

   2016年3月25日  

 眇寨、もし皆に迷惑を掛けていると思ってんなら心配すんな。皆、迷惑だなんて思っちゃいねぇよ。俺にだって、気を使う必要はない。ただ、俺はお世辞や綺麗事が大っ嫌いだ。だからはっきり言う。薬を飲まねぇお前は俺にとって迷惑だ。お前は今、鬱病だ。種類や原因は色々ある。俺は精神科医ではないが医療心理士だ。マッドサイエンスだけが取り柄じゃねぇ

 

 
 僕はどれだけの時間、ベッドに体をあずけているのだろう。
 天井のシミが悪魔に見えてしょうがない。
 あの日、平山の技術によって映像化された夢を見てから感情と行動のコントロールがとれなくなった。
 三月《みつき》……
 あたたかかった、あの日々の笑顔が枯れて行く夢をみる。
 ここで僕がやらなければいけない事。思い出さないといけない事は、これの事だろう。しかしこんなにも辛いだなんて。
 僕は尊い命を奪った殺人犯だったんだ。生きる道なんてないんだ。いっそのこと、エリミネートされてしまいたい。真っ暗な部屋の隅で闇を吸い込んでいる。
「眇寨《びょうさい》、入んぞ」
 扉をノックする音が聞こえ、僕は布団の中へと潜り込んだ。
「元気か? なんてくだらない事を聞くつもりもないが、いい加減俺が処方した薬を飲め。食事だってろくに摂ってねぇし、寝てもいないだろ。人間は食事と睡眠のバランスを崩すと壊れちまうんだよ」
 あの日以来、平山はよく僕の部屋へやってくる。何か責任を感じてるんだったらお門違いだ。これは、僕が思い出さないといけない事だったのだから。
 あの日といっても、もう二ヶ月も前だ。おそらくパニック状態になっていたであろう僕に、平山はすぐに注射を打った。意識を失った僕を宮守が担いで部屋まで連れて来てくれ、今に至る。皆に迷惑を掛けている事は十分承知だ。だが、どうにも身体が動かない。気持ちが乗らない。
「眇寨、もし皆に迷惑を掛けていると思ってんなら心配すんな。皆、迷惑だなんて思っちゃいねぇよ。俺にだって、気を使う必要はない。ただ、俺はお世辞や綺麗事が大っ嫌いだ。だからはっきり言う。薬を飲まねぇお前は俺にとって迷惑だ。お前は今、鬱病だ。種類や原因は色々ある。俺は精神科医ではないが医療心理士だ。マッドサイエンスだけが取り柄じゃねぇ」
「……なんで平山さんは僕をかばってくれるんですか……」
 久しぶりに出した声が裏返った。
「別にかばっているわけじゃねぇーよ。ただ、俺にはお前の辛さが分かるんだ。焦ってもがいて苦しいことも。そして、お前を治すことは俺の為でもあるんだ」
「……どうして平山さんの為なんですか……」
 平山は暫く間黙っていたが、メガネをゆっくり外し言った。
「まぁ、お前がキチンと薬を飲んで、少し良くなって来たら話してやるよ。妙な話だが、聞く価値はある。それを楽しみに、今は生きろ……後で粥を持って来てやるよ」
 そう言って平山は部屋をあとにした。
 

 

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