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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

Egg〜スパイの恋人〜episode1

   

『先日、当社開発の最新型コンピューターウィルス通称〝メドゥーサ〟が盗まれた。そこで君達二人に課せられた任務だが、メドゥーサの奪還とそれについて知ってしまった犯人および関係者の暗殺だ』

 爽やかな朝に届けられたミッションは、爽やかなものではなかった。

 物臭不器用スナイパー×お調子者天才ハッカーのハードボイルドスパイアクション!新連載スタート!!

 

 他の土地より少しくらい治安が悪い程度のニューオーリンズの風は、世間様から少々はみ出した程度の俺にとって、大層心地の良い場所だ。
 それはそれは、気持ちの良い朝の事。
 ……否、ちょっと大袈裟過ぎる表現ではあるな。訂正すると“それは、普段と大して変わらない気持ちの良い朝のことだ”。
 相棒のリチャード・ケルことリックが、お気に入りのくまプーのエプロンで、俺を起こしに来た。
 午前六時。
 そんな爽やかなのかクソメイワクな早朝も、奴の『いつまで寝てんだよぅ!!』等と言う無神経な一言で、更に不愉快になる。
 爽やかな朝だから早起きしろ、と言うリックに『したきゃ一人で起きてろ!!』と言ってやりたかったのだが、なんとなく面倒臭いに加えていつもの事なので、やめた。

 ……言っても、どうせ無駄なだけだしな……。

 爽やかな朝はゆっくり起きて、ビールでも飲みながら、ついでにタバコでも吹かしながらゆっくりのんびり過ごしたいと言う俺の定義は、奴にはこれっぽっちも伝わらないようだ。
 では何故こんな性格も考え方も真逆な奴と組んでるかって?
 それにはもちろんちゃんとした理由があっての事。
 リックは世話好きなのか、炊事やら洗濯やら掃除やらと言った家事全般が大好きなのだ。
 以前『趣味か?』と聞いたら『趣味なわけないじゃん、ラームがやんないからでしょ?』とか言われたが、あれは趣味に間違いない。
 ちなみに、ラームとは俺、ラミングウェイ・ダークゥインの事だ。
 そう言う事情だ。
 そうでなければ、一緒にいる理由はない。
 寝ぼけ眼でキッチンに着くと、テーブルにはいつもの様に朝食が用意されていた。
 香ばしく鼻腔をくすぐるバターの臭い。狐色に焼かれたトーストとベーコンエッグ、それからサラダにミルク。
 先にトーストを片手に大口をあけたリックが、俺に気づいて再び「おはよう」と言った。俺はそれを無視して、無言のまま冷蔵庫の扉を開けた。取り出したるは缶ビール。俺の朝は、コイツから始まる。
 薄い布地のカーテンが揺れる。こげ茶色の窓枠に仕切られた小さな四角形から溢れ出す酷く滑稽な日の光が、俺をあざ笑っているようにも思える。ビールを開けながら暫く静止するかの様に、本来なら清々しく気持ちよくもある筈の青空を睨み付けた。鳥がピーチクパーチクいいながら、四角い空を横切っていった。
 気持ちいいなんて、思いたくても思えない。
 ただ、もし空を見上げて良かったと思える事があるのだとしたら、それは夜空の月が赤く染まっていなかった時。
「朝食冷めるよ」
「あぁ」
 なんて不器用に返答して、腰掛けた。
 ふと、テーブルに置かれた古臭いカセットテープに目がいく。
「リック、何だこれ?」
「そうそう。Mr.クレィターからメッセージが来てる」
 Mr.クレィターとは、任務内容や金の管理など、俺達と会社との間の雑務をこなす仲介人の様な役割を受け持つ人間だ。ただし、会った事もなければ見た事もないから、どんな奴か分からない。いつもやり取りは、カセットテープや電話で済まされる。
「そうじゃなくて……ミッションか?」
 特別興味もなさそうに、問い掛けてやる。
「まだ聞いてないから、知らない」
 こいつも興味がないのか……。
「こういうのは直ぐ聞くもんじゃないのか?何時間以内に、とかあるだろう」
 と言うと
「まだ今朝届いたばかりだし、ラーム寝てたから」
 だそうだ。

 人のせいにするなよ。

 俺はカセットテープを手に取ると、部屋の隅に転がっていた小型ラジカセにセットした。
 再びラジカセから離れ席に着いたとき、耳障りな雑音と共にMr.クレィターの音声が流れ始めた

『おはよう! ラミングウェイ君にリチャード君。なんとも気持ちのいい朝を過ごしている事だろうね。実に素晴らしい事だよ、諸君。さて、今回の件は他でもない、新しいミッションについてだ』

「…………」
 リックが面倒臭そうに、カフェ・オ・レを啜った。俺も続いてビールを飲み干した。

『先日、当社開発の最新型コンピューターウィルス通称〝メドゥーサ〟が盗まれた。そこで君達二人に課せられた任務だが、メドゥーサの奪還とそれについて知ってしまった犯人および関係者の暗殺だ』

 また、暗殺……とは穏やかじゃないな。
 そして、更にメッセージは続けられる。

『今回は一人助っ人を用意したんだ。コードネーム〝シルバー・フォックス〟。闇の世界で生きる君達なら噂ぐらいは耳にしているだろ? 彼女を5時間ほど前、パリに送り込んだ』

 シルバー・フォックス。

 確かに、噂だけは知っている。この業界で生きていれば、嫌でも耳にする話だ。〝最強のバウンティ・ハンター〟、かつて天才かつ最強だと恐れられおののかれた、闇の殺し屋パープルアイを仕留めたとかいう女だ。小柄な日本人らしいと言う噂も聞いた。
 リックと二人、目だけを合わせた。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


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