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ノンジャンル

解拳人(中)

   

不思議な経験をしたジョニーは、その正体は一体何なのかを考えるようになった。しかし、簡単には結論が出ず、悩み続ける毎日である。

幸い、他のことを考えれば考えるほど物事に没頭できる体質の持ち主だったため、道場での練習にはむしろ身が入ったが、当然、なかなか答えには出会えない。

そんなある日、居残り練習をしていたジョニーのところに、見知らぬ女性が訪れてきた。彼女は、「キックボクシングのジムで練習をしているが、回し蹴りのコツが掴めない」と悩みを訴えてきた。ジョニーは丁寧に応対し、何とか彼女が納得できる結論を示すことに成功したのだが……

 

 あれは一体、何だったんだ?
 家に帰り、食事をし、睡眠を取ったジョニーは、当然のように日常に戻った。
 ちょっとした揉め事はこの街では珍しくない。
 一々気にしていたら暮らしていけないことを彼は知っていた。
 一方、あの奇妙な出会い、数十分のやり取りで生じた疑問は、ジョニーの頭の中にこびりついていた。
 何をしていても、ある一部分の意識は、そのことに割かれてしまっている。
 どうして、男と自分の手にグローブが着いていたのか。
 どうして、自分はあの場から逃げることができなかったのか。
 何故、踏み込んできた男に、微塵も敵意や殺気が込められていなかったのか。
 何度考えてもまったく納得のいく答えが浮かんで来ない。
 ネットで検索してみても、類似の事例は報告されていない。
 その手の話が通じるオカルト系のサイトや掲示板でも、「ボクシングをかじった感じの霊に試合を挑まれる」といった事例を見つけることはできなかった。
 もっと納得がいかないのは、ジョニー自身の「肉体」だった。
 あの日、あれだけパンチを受け、クリーンヒットまでされた。
 道場の練習では味わえない種類のハードさを全身で受け続ける形になった。ダメージはしばらく残ったはずだ。
 にも関わらず、シャワーを浴びた時に確認した限りでは、擦り傷もアザもまるで残っていなかったのである。
 部位に変異がない以上、どんな名医に見せても「異常なし」との診断が下るはずだが、あれだけの要因があった以上、正常である方が不自然なのは明らかだ。
(夢でも見ていたのか、僕は。いや、あれは完全に現実だった。分からない……)
 無駄に脳細胞を使っている事は理解できる。
 迷いは余計な疲れを生み、精神の疲労は決断を鈍らせる。
 その程度のことは若いとは言え色々な経験をしているわけで理解できている。
 しかし、根拠なく答えを出すのは、ジョニーの好みではなかった。
 だからこそ、筋力ではなく技を磨き、思考力で目標に近付く道場に通いつめている部分もある。

 

-ノンジャンル


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