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SF・ファンタジー・ホラー

ウパーディセーサ〈十八〉

   2016年3月30日  

 平山の言葉になおも涙が止まらなかった。無理に笑顔を作ってる訳じゃない。笑顔になるだけが、今の自分の出来る事だったから……

 

 
 また真っ白な部屋だ。呼吸器をつけられ、心電図が一定のリズムを刻んでいる。短く、永い夢を見ていた気がする。白熱灯の反射する眩しい部屋の片隅で、鏡が机に腕枕を作って眠っていた。首に微かな痛みを感じる。平山は僕の顔の横の折りたたみ椅子に座っている。あれは何だったんだろう……確かに焦響だった。幼い時から一緒に育った、辛いことも、哀しいことも半分に分け合った、僕の親友だった。あの後ろ姿を思い出すと、なんとも切なく、やるせない。恋人が背中を向けて走り去って行く様な。心にぽっかり穴が空いた様な気がする。
「眇寨、気が付いたか。よかった。幸い、傷はそんなに深くねぇ。一週間もすれば痛みも引くだろう。今は鎮痛剤のおかげでそんなに痛まねぇはずだがな。しかしなんだってお前ばかり……」
「平山さん……僕は大丈夫ですよ……」
 呼吸器が白く曇った。そうだ、大丈夫なんだ。こんな事……僕は笑っているだろう。
 でもなんでだろう。視界がぼやけてきた。走馬灯の様に焦響との今までの出来事が浮かんできた。
 中学の頃、公園に捨てられた猫をなんとか助けようと、お金もないのに獣医に駆け込んだ。結局生き途絶えてしまった亡骸を、泣きながら埋めたこと。中二の頃、喧嘩をして半年間話さなかった時期もあった。それでも一緒に乗り越えてきた。大学に入って、お互い馴染めなくて、結局大学を辞めてしまい、働いてもいなくて、電気、水道、ガスも止まって、水で作った味噌汁を二人で震えながら飲んだ事。あいつが足を怪我して、雪の中、僕が背負って病院へ連れて行き、帰りに買った松屋の豚丼があんなに美味かった事。お互い働くことになって会う時間が減った事に焦りを感じていたのかもしれない。でも会えばいつも安心した。優しいあいつの笑顔が、変わらない僕らの友情を語っていた。
 そんな回想が、涙として溢れかえった。自分でも制御できないほど、涙が次々と込み上げてきて……今までの時間が嘘の様に思えて、混乱して。それでも僕は笑っていた。笑いながら、拭うことも出来ない涙が流れ続けた。
 平山は僕の頭にポンっと手を置き、優しく撫でながら言った。
「眇寨、無理すんな。あの男が誰だったかはしらねぇが、お前は知っているんだろう? 焦らなくたっていい。元気になったら聞かせてくれ。俺はそれまでにシステムを向上させ、お前の容体をチェックする。大抵のお前の面倒は鏡が診てくれるだろう。気兼ねなしに休め。無理して傷が開けば、まずいしな」
 平山の言葉になおも涙が止まらなかった。無理に笑顔を作ってる訳じゃない。笑顔になるだけが、今の自分の出来る事だったから……

 

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