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ハートフル

春日和

   

満開の桜、春の風に舞う花びらの下で、社会人としての一歩を踏み出すひとりの女性
やっと手に入れたチャンスを生かすも殺すも最初が肝心と思えば思うほど、緊張が高まっていく
それを和ませてくれるのが、桜だった
はたして社会人としての一歩を無事踏み出せるのか…

 

 
 さくらさくら――
 どこまでもつづく青い空と、薄い雲。

 さくらさくら――
 まだ空は高いけど、燦々と照らす太陽の陽ざしは少し汗ばむ感じ。

 さくらさくら――
 心地いい春風に舞う花びらの中、私はどこまでも続く桜並木の緩やかな坂を一歩一歩踏みしめながら歩いている。

 真新しいブラウスは清潔感を出す白、上下のタイトスーツは濃いめのグレー。
 足がそれなりに綺麗に見える踵5センチくらいのパンプスに、胸元のスカーフだけは鮮やかな桜色を選ぶ。
 落ち着いた色に戻した髪の毛の毛先がふわりふわりと揺れるのは、春風にのって足取り軽く歩いているから。
 唇を彩るルージュも桜色にしたのは、今日がそんな気分だったから。
 本当はね、もう少し大人っぽい色にしたかったのだけど、気分がそんな気にならなかった。
 別にいいかな、学生気分が抜けていないと言われても。
 それくらい、春日和なのだ。

 朝、この桜並木は多くの人が行き交う。
 坂の下には住宅街、坂の上には駅と学校がある。
 私は今年の春まで、坂の上にある学校に通っていた。
 そして卒業した後もこの桜並木を通って学校より一本前の横道から入る駅へと向かう。
 通学は朝だけど今は昼。
 人通りのピークを過ぎたこの並木道、独り占めしているみたいでとても気持ちがいい。
 少し足を止めてこの空間に浸っていたい。
 舞う桜の花びら、時折足元から小さな風が吹きあがり、あおられるように落ちた花びらが再び舞うその光景は、立ち止まって空間を楽しんでこその醍醐味だと思う。
 でも今の私にはそんな時間は許されない。
 もうひと踏ん張りと坂道を歩く足を気持ち少しだけ大きく踏み込んだ。

◆◇◆◇◆

 待ち合わせは駅前にあるパンダの銅像。
 なんで駅前にパンダの銅像かというと、街の造りが上野に似ているから――だそうで、何代か前の市長さんが人の税金で造ってしまったのだけれど、意外といい目印になって重宝しているというのが本音。
 私もそのひとりである。
 その場が待ち合わせだという数人に向け、私は声をかけた。
「こんにちは。○○派遣会社の工藤といいます。点呼、取りますね」
 私が勤める会社が集めた派遣さんたちの顔をひと通り見回して、これから向かう派遣先に派遣する7人の名前が記載されている名簿に、私は目を通した。

 就職難と言われる昨今。
 私も実はその被害にあったひとり。
 内定取り消し、天国から地獄へまっ逆さま。
 そしたら偶然にも、私が学生時代登録バイトしていた派遣会社に試験採用されることになったの。
 ようするに、ついこの間まで今目の前にいる派遣バイトの7人と同じ立場だったというわけ。

 

-ハートフル


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