幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ノンジャンル

解拳人(下)

   

既に命はないものの、非常にポジティブなボクサー、タイゾウ・イワキと成り行きで「組む」ことになったジョニー。

イワキはもう長い間死んでいるというだけあって知識が豊富な上に格闘技の知識も豊富で、想念体の相談をクリアするには打ってつけの人材だった。問題を解決するごとにジョニーの実力も上がり、ますます練習に身が入るようになっていく。

そんなある日、練習していたジョニーたちは、タチの悪い「存在」が人に絡んでいるのを発見する。

ジョニーとイワキはなだめに行ったのだが、絡まれている側からすれば、いきなり出てきた生者ではない巨漢というイワキの存在は恐怖でしかなかったらしく、パニック状態に陥った挙句にイワキの股間を蹴り上げて走り去ってしまう。

ただとりあえずは人がどこかに行ったので一件落着、であるはずだったのだが、蹴られたイワキは何故か異様な荒れぶりを見せ始める……

 

「おっと、すまなかったな。驚かせちまったみたいで」
 ファイティングポーズを取ったジョニーを見た男は、人懐っこい笑顔を見せた。どうやら敵意はまったくないらしい。
「すまんな。生きてる頃からのクセでね。どうしても人にいいリアクションを取らせたくなっちまうんだよ。実際、俺は死んでるし、その事を理解できてもいるが、恨みがあって居座ってるわけじゃねえ。確かに事故ったけど、突っ込んだのは俺の方だし、黒い自転車に黒づくめの服で無灯火だった。これで気づけってのも酷な話だろう。ちょっと前、相手にワビを入れたぐらいだよ。だから、悪い感情でもって人をどうこうしようって考えはない。安心してくれよ」
 確かに男は、死んでいるとしては不自然なほどに活力に満ちていた。
 いや、案外こんな感じなのかもと思わないでもないが、実は生きているという話の方が納得はできそうだ。ただ、それよりも気になることがジョニーにはあった。
「ど、どうして僕の前に……?」
「まあ、お節介半分偶然半分ってとこだな。俺は死んでるって言っても地縛系じゃないから色んなところを旅したりできるんだけど、旅行中にこの街で偶然君を見かけたんだ。失礼に取られるかも知れないが、驚いたね。普通、見えないものを感知するセンスは、誰か確かな人について勉強でもしないとなかなか開かねえんだけど、誰に習ったような感じもないのに完全オープンだったからね。同時に、心配にもなった。生きてるか死んでるかに関係なく、見えるタイプの人間に俺たちは引き寄せられる傾向にあるからね。大体はまあ、普通の話をしたいだけなんだけど、時にはかなり厄介な奴も出てくる。もしそんな奴らに絡まれたら、かなり厳しいだろ?」
 ジョニーは生唾を飲み頷いた。
 実際、この短期間に二度も痛めつけられている。
 傷はできなくとも殴られれば痛みが走るのである。
 もし刺されたり斬られたりでもしたら、肉体は無事でも精神の方がついていけなくなってしまうかも知れない。ショック死の危険だって考慮しなければならない。
「は、はい。多分、僕一人じゃきついかと」
「いい返事だ。リングだったらとにかく虚勢を張ってでもってのも正解だが、何が起こるか分からない路上なら、まずは自分の立ち位置を把握することだ。そこで相談だが、俺と組まないか? ちょっとの間だけでいい。君が腕に自信を持ったり、知識のある友達ができるまででも構わない。日が沈んでから俺と一緒に行動するんだ。俺はこういう立場だから想念体が集まる場所を感じ取ることができるが、彼らは俺が見えない。一方君は、想念体を引き寄せられるが、危険な連中への対処は難しい。だが、組めば欠点を補い合える。悪い話じゃないだろう」
 男の表情は自信満々だったし、実際、こちらにデメリットのあるような条件ではなかった。
 格闘関係で困っている人の話を聞くのは楽しいし、力を求める気持ちはどんどん強まっている。
 そして何より、鎧武者が絡んできたりする状況に対処するには、今のジョニーだけでは無理があった。
「よ、よろしくお願いします。ジョニー・ギリアムです。……ええと」
「タイゾウ・イワキだ。よろしくな、ジョニー」
 こうして二人は握手を交わした。
 イワキの手は冷たかったが、ひんやりとした外気に晒されていたからか、それとも「性質」によるものかは分からなかった。

 

-ノンジャンル


コメントを残す

おすすめ作品

アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編 第34話「それでも――――」

   2017/11/20

探偵の眼・御影解宗の推理 【嘆きの双子】15

   2017/11/20

ロボット育児日記39

   2017/11/17

忠実な部下たち

   2017/11/17

モモヨ文具店 開店中<36> ~帰り行く者~

   2017/11/16