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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

Egg〜スパイの恋人〜episode3

   

「〝最強〟の二文字を貰おうか?」

 女と男の間で、駆け引きが交わされる。

 物臭不器用スナイパー×お調子者天才ハッカー×謎の女。ハードボイルドスパイアクション!

 

「何のつもりだ?」
 リックが急いで、自分も拳銃を抜こうとした。
「待て、リック」
「ラーム?」
 再び、女に向き直る。
「何のつもりだって聞いてんだよ? クソ女」
「…………」
 女から、さっきまでの気の強さが消えた。
「……私は……私が覚えているのは……自分の名前、〝シルバー・フォックス〟と、〝今日の正午、凱旋門の下で赤い薔薇を一輪手に、二人の男を待つ〟ということ。それと、自分が〝スパイ〟だって事だけ……」
 女の握る拳銃がカチャカチャと音を立てながら、微妙な照準で俺の頭部に狙いを定める。
「どうした? 撃てよ?」
「…………」
「引き金が引けねぇなら、拳銃なんて持つんじゃねぇよ」
「……して……」
「あぁ?」
 女が諦めたように拳銃を下ろして、うな垂れた。
「お願い……私の記憶を探して。唯一残された記憶の中の言葉〝二人の男〟である貴方達しか、手がかりがないのよ……」
「…………」

 面倒くさいこと、この上なしだ。

 しかし、ニヤリと笑う。
「ほぅ。だいの男二人、しかも初対面相手にオネダリとは怖いもの知らずなお嬢さんだこと」
「ちょっと、ラーム!!」
 俺はリックを無視して立ち上がった。
「さぁて、お嬢さんはどんな報酬を支払ってくれるんだか」
 女の顎を指先で引き上げた。身長差に少し苦しそうにしながらも、必死で睨みつける女の目を凝視した。
「ゲス野郎!! 何が目的なのさ!!」

 ――貴様が、気に食わねぇだけだよ。

「〝最強〟の二文字を貰おうか?」
「!?」
「もちろん、全てが済んだ後だ。お前を始末するなとは言われてないんでね」
 女の瞼が、笑うように閉じて開いた。次に双眸へと浮かび上がった感情は、一言で表現すれば『面白い』。
 俺を、馬鹿にしてるのか? 気に食わない!! 女なら、泣け! 謝れ!! 女らしく縋れば、俺だって少しぐらいは考えてやる。
 けれどこの女は
「いいわ。その代わり、私に抵抗する権利はあるのかしら? ないのかしら? 無抵抗な女を殺すのが、貴方の殺り方?」
 と言いやがった。
「……抵抗したいならしろ」
 そして、再び腰を下ろす俺。同時に料理が運ばれ、テーブルに並べられる。
「私が受けたミッション。そんなもの分からない。敢えて言うなら、貴方達に会うことかしら。過去の記憶もひっくるめて、今の私には名前以外何もないの。目覚めたのは飛行機の中。パリに着く1時間程前だった。元々存在しなかったかのように、全ての記憶がすっぽりとなくなっていた」
 今度はリックが口を開いた。
「君と一緒に、新型コンピューターウィルス〝メドゥーサ〟の奪還及び、関係者と情報を知り得たものの抹殺。これが、オレ達二人が受けたミッションだ」

 会社は、何の為にこの女の記憶を消したんだろう???
 そして、何故今回に限って三人なんだろうか???

 どちらにしろ、面倒臭い。そして、気に入らないミッションだと心底思う。
 食事を済ませ、女が化粧室へと席を立ったとき、リックが話しかけてきた。
「ラームにしては、めずらしいね」
「何が?」
「面倒臭いって言うと思った」
「お前ならどうした?」
 聞かれて奴は一呼吸置いてから、想像通りの台詞を吐いた。
「最強には興味ないけど、取り敢えずはイエスかな」
 そう、重要なのあの女と組めというミッションなのだ。
「俺だって最強の名前なんて興味ないさ。ただ、あの女が気に食わないだけ。全てが終わったら殺す。殺してしまえば協力する必要もなくなる」
「オレはごめんだけどね、女を殺るのは」
 女が戻ってきた。
「これから、どうすればいいのかしら?」
 リックが答える。
「取り敢えず、ホテルを取ってあるから、そこに移動しよう」
「分かったわ」

 ただ女が邪魔なだけで、いつもより安易な仕事だと思っていた。
 それは今でも変わらないが、何やら嫌な予感がする。仕事自体は容易ないだろう、だが何か引っかかる。
 そう簡単に事は運んでくれなさそうだ。

*****

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


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