幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

SF・ファンタジー・ホラー

ウパーディセーサ〈二十二〉

   2016年4月11日  

 心が空っぽになった。とても自分が恥ずかしく感じた。どうしよう、このまま桜の根となって消え去りたい。

 

 
「ねぇ、ママ。どうして私にはパパが居ないの?」
「それはね、お仕事が忙しいからよ。私達が暮していけるのも、パパのお陰なんだよ。だから、人を羨んではダメ。今ある現実を見なきゃいけないんだよ! って、鏡にはまだ難しいわよね」
 ママはいつも笑っていた。パパが居ない淋しさを笑顔で賄ってくれた。
 ママはいつも黙っていた。パパが居ない侘しさを沈黙で隠してくれた。
 幼稚園の記憶、ママが運動会に来てくれて。お弁当なんか、サッカーボールおにぎりだし、ウィンナーだってタコさんだし、林檎はウサギさん。私を肩車して、パン食い競争は一等賞。とってもとっても私の自慢のお母さん。
 小学生になって、ママはあまり学校に来なくなった。パートもあるし、大変だったんだと思う。クラスメイトのお母さん達はよく、ないしょ話をしていた。「片親は大変ねぇ」と。でも私の自慢のお母さん。
 小学五年の冬休み。一緒に行った大分の湯布院。露天風呂が真っ白に輝く柔らかな雪に囲まれ、お湯が寒そうに白いため息をはいてた。私は嬉しくて、初めての温泉で、雪なんてあまり見たことが無くて、のぼせて裸で雪の中にジャンプして、体がピリピリして。そのあと、私が眠るまで、ヒリヒリする体を団扇で仰いでくれた。私の自慢のお母さん。
 中学に入って、私の初めての制服をアイロンがけしてくれた。インスタントカメラで一緒に写真を撮った、笑顔な私と無表情なお母さん。
 中学二年の頃、家に帰るとお母さんはお酒を飲み、タバコを吸っていた。でも私の自慢のお母さん。
 高校に入って、私はお母さんと話す機会が減っていった。お母さんは睡眠薬とお酒に溺れ、昼間から眠っていた。でも私の自慢のお母さん。
 高校三年の夏、お母さんはとてもイライラしていた。何かあると私に物を投げ、私をぶった。でも泣かなかった。一緒に撮った写真を握りしめ、いつかあの時みたいに戻れると信じて。
 お母さんは精神科に通っていた。躁病と診断されたらしい。薬を飲んだお母さんは、震えて泣いていた。でも私の自慢のお母さん。
 高校を卒業して、私は近くの縫製工場に就職した。新しいことに慣れなくて四苦八苦していた。家に帰るとお母さんが広島焼きを作ってくれていた。私の仕事の話は聞いてくれなかった。いつもお母さんの話を笑いながら、延々と聞いていた。お母さんは私にお酒を勧めた。本当はあまり飲みたくはなかったけど、言われるがままに飲んだ。酔っ払ってしまった私を前に、なおも話し続けるお母さん。でも私の自慢のお母さん。

 

-SF・ファンタジー・ホラー
-, , , , ,