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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

巣鴨振り込め詐欺事件、その1

   

「私はあの日、巣鴨で犯罪者と会いました」

 刑事を父に持つ女子大生・浜岡恵理は、老人を救助する青年と出会った。

 そして、青年は老人に自分の名刺を渡して去っていった。

 ・・・きっかけは、まさに“良い話”だったのだが。

 深夜、泥酔した父のパソコンを盗み見て気づいた。

 その青年が巣鴨をにぎわせている“詐欺師”の容疑者だったとは・・・!

 これは、家族を失いながらも、懸命に自分の正義を貫く女の子の記録。

 

 巣鴨の空気は乾ききっています。それはまるで年老いた人の肌のように。ざらざらとした空気が漂い、息をする度に私ののどをこすっています。巣鴨駅に着くまでにはあと十分くらい歩きますので、このままでは私の喉が潰れてしまうでしょう。私は背負ったリュックから、レモンののど飴を取り出しました。スティック状の包装を解いて一粒取り出します。粒を包む銀紙を開けると、柑橘系の甘酸っぱい香りを一瞬だけ感じました。唾液を飲み込みながら唇の先でのど飴をつまむと、口いっぱいにその清涼感が広がります。ですが、その味わいに感動はありません。それは既に二百回目の味わいなのですから。私はのど飴を味わうこともなく、ただのどを潤すためだけにコロコロと口の中で転がし続けました。
 片道三車線の道路は今日も変わり映えがしません。いつもの退屈な日常です。スーツを着たサラリーマンがイライラしながら足早に歩き、戦車のような自転車に乗る主婦がわがもの顔でかけていき、育ちのよさそうな女子高生が思春期特有のアンニュイな気分を全身から漂わせて歩いています。そう、いつも通りの平和な道です。巣鴨在住歴十九年。二十年近く住んでこの街に愛着があるかと言えば、そんなものは全くありません。住みやすい土地ではありますが、私はここの駅前や商店街が苦手です。なぜならここはご老人たちによって築きあげられたカオスのような場所ですから。彼らは平気で私の歩く先をふさぎ、私のそばで平気で唾を吐き、電車を待っている時に順番抜かしも当たり前。自分を世界で一番偉いと誤解している人々の集積場。それがここ巣鴨だ、と私は個人的に定義しています。本当は日本の繁栄を築いた愛すべき先人なのですからほめたたえたいと思っていますが、諸般の事情があってそう思えなくて非常に残念です。
 世の中には言霊というものがあります。言霊とは、口に出したことが現実に引き寄せられる現象のこと。私がご老人のことを考えていたからでしょうか。まるで私の考えに応えるかのように、赤信号の横断歩道を渡ろうとする白髪の女性が現れました。彼女は道路を挟んで私の反対側にいるのですが、車道に二歩ほど踏みだし、まるでタクシーでも捕まえるように前のめりになっています。彼女は自分の行動を子供が真似するとは思わないのでしょうか。白髪の女性は一歩ずつ用心深く進み、車が来ないと確信したのか、まっすぐ前を見て堂々と歩き出しました。私には彼女が車にひかれたがっているようにしか見えません。もしかすると、わざと車にひかれてお孫に財産を残すつもりなのかもしれません。
 案の定、おばあさんが横断している最中に車がやってきました。白い乗用車で企業のロゴが入っています。車はおばあさんまで二十メートルに迫った時にようやくブレーキを踏みました。あたりには鼓膜を切り裂くような甲高い音が鳴り響き、車は進行方向をずらしたのか、中央分離帯にぶつかって衝突音を轟かせたのです。死んだと思いますよね、普通。私も「二人とも」死んだと思ってしまいました。死んだのはおばあさん一人ではありません。二人です。実はおばあさんを追って駆け寄っていった人がいたのです。それは若い男性でした。若いと言ってもおそらく一回りは年上の方。黒いジャケットとジーンズという格好で、黒髪でした。前途ある若い男性が、老い先短いおばあさんの為に飛び込んでいく。再放送で見た、昭和のテレビドラマのようでした。

 

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