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SF・ファンタジー・ホラー

ウパーディセーサ〈二十三〉

   2016年4月13日  

 そう言っていたあの女は本気の様だ。何故なんだ。狙うなら僕一人を殺せばいい。何で僕の大切な人達を、何故……
 悲しみに涙を押し堪えた。虚しさに怒りを溜め込んだ。

 

 
 緋多弘平という内通者を泳がせて、一月経った。未だに何の証拠も掴めていない。ただあの時ハッキリと見た。鏡に似た誰かが、緋多を蹴飛ばし愚痴っていた事を。ただそれは証拠にはならない。ただ単に足元にいた緋多を蹴っていただけかもしれない。でも他の内通者なんて考えられない。
(こいつまで倒れてるじゃん……)
 確かにあの女は言っていた。仮に緋多が内通者でないとしても、この基地内の誰かが加担しているのだ。
 あれ以来、緋多の行動に怪しいところはない。なら何故? いや、解らない。
 でも一つだけ、喉につっかかっている事がある。あの時、あの女は言っていた。僕のせいで人生がメチャクチャになったと。心当たりは一つしかない。でもまさか。そんなはずはない……
「おい、眇寨。最近またエリミネートが起きないな。この空白の時間は何なんだろうな」
 宮守が腹筋をしながら、声を震わせ、僕に尋ねた。
「そうですね。あの事件以来、ピタリと途絶えてしまいましたね。敵は何を考えているのか。何が目的なのか。さっぱり分からないです……」
 本当に解らない。相手の目論見は何なんだ。僕が標的なら、さっさと殺せばいい。僕が原因ならばだ。
 でも敵は動かない。ならまた何か新兵器を作っているのだろう。考えられる事。次に来るのはきっとこの基地の職員の記憶を操作する。この世界で一番安全なはずのこの基地に。
 平山のアンチリードセルプログラムは完成している。侵入される事は無い。平山の腕は確かだ。
 僕はずっと緋多を監視していた。自分なりにだ。しかしあれ以来、怪しい行動はとっていない。あの日から、僕はずっと客間で遅くまで酒を飲んでいる。平山がずっとプログラミングをしている姿や。宮守の筋トレを見ながら。そういえば、新しく出来た友達もいた。沼堀という平山の研究チームの一人だ。
 今までは倦厭して来た平山チームだが。前の宴会の時に意気投合した。歳は幾分か上のようだったが、ここで歳なんてないんだ。彼は色々と、カルト的な知識が豊富だった。僕も昔から興味はあったが、なかなか踏み入れる事が出来ずにいた。彼が教えてくれた丸尾末広の漫画は僕にとって、とても新鮮だった。色々な本も貸してくれた。江戸川乱歩に中島らも。僕は客間で酒をちびりつつ、本を読みふけった。そして、それらの本を読んでいて気付いた事がある。そう、何事にもトリックがある。このProject Eにも勿論トリックがあるはずだ。

 

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