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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

巣鴨振り込め詐欺事件、その2

   

 中野仁志、27歳、独身。
 職業、有限会社社長。

 ・・・その裏の顔は、高齢者をターゲットとする詐欺犯の容疑者。

 その情報を知った恵理は、中野を調べ始めた。

 一見、穏やかな好青年。
 なかなか尻尾がつかめず、空回りをする。

 意を決して中野に接触する恵理だったが・・・。

 恵理に起こった悲劇は、果たして中野の反抗なのか。

 素人探偵、女子大生恵理の人生を変える急展開が巻き起こる。

 

 父は「巣鴨連続詐欺事件」の指揮を行う立場にあったようです。パソコンで作成していた資料は、近日中に行う捜査会議の資料でした。幸い、直近で行われた捜査会議の発表資料も残っており、私はその全てデータを自分のパソコンにコピーして目を通したのです。すると、私の脳裏には、その会議の光景がありありと浮かんできました。事実と推論と方針だけを記したその資料の行間に、チームをまとめようとする父の苦悩が刻まれており、私は彼が抱えている苦悩を少しずつ浮き彫りにして、一つのストーリーを描いたのです。
 舞台は会議室。巣鴨署の外観は一年前に工事していますが、予算の関係上内装に手を施すことができず、会議室はカビの生えたような辛気臭い場所であったそうです。その会議室は以前は平気でたばこが吸えた時代があり、壁にはヤニが張り付いていたことでしょう。そして表面が剥げた長机が多数並べてあり、総勢20名の刑事は着席することなく立ったまま、目の前のホワイトボードの方を向いていたのです。その人物は、署長である大村という男性。年齢は五八歳で、大変神経質な人物であると推測されます。鋭利な刃物のような視線を刑事たちに向け、恫喝するような口調で、刑事たちを叱咤したことでしょう。
「いつまで手こずっているんだ!あのドブネズミ相手に!」
 大村署長はホワイトボードに書かれた「中野仁志」の文字をバンバンと叩きつけています。
「中野は対策本部ができた当初から目を付けていた本丸だろうが!なぜ未だに尻尾すら掴めんのだ?浜岡、説明しろ!」
 刑事たちの先頭にいた父、浜岡は顔をあげました。父は対策本部のリーダーを務めていましたが、彼の普段の服装は光沢のある紺のスーツを好んでおり、他の刑事に囲まれる中では浮いた存在であったと推測します。その父は開いてあったメモを読みながら大村署長に報告をしました。
「はい。容疑者であるナカノ・ソリューション代表の中野仁志 二十七歳は、詐欺事件の被害者数名と交流があり、被害者との関係を洗ってきました。ですが、現在、被害者と中野との間で金銭のやり取りを確認できたのは二名。それも法的に財産分与の手段を取っており、現時点では違法性は確認できていません。また中野の口座を洗ってありますが、詐欺を疑うような有力な取引は現在確認できていません」
 これは事実のようです。父のパソコンにも、中野の個人口座や会社名義の口座記録の記載がありました。個人や企業とのやり取りは多数見受けられますが、被害者に関連するもの、また架空口座からのやり取りと思われる取引は皆無だったそうです。父の会議資料によると、大村署長は中野の検挙にかなりこだわっていたとのこと。だからこそ、父の報告に気分を害し、食らいついてきたのでしょう。
「取引相手を全部精査したのか!不審でないという確証は!」
 大村署長のとげのある言葉に対し、父は冷静に報告を続けました。
「追跡調査の結果、取引相手の身元確認は全て取れています。企業に関しては優良企業、個人においても、その多くが会社役員の奥様を筆頭に、不審な身元の人物は確認できていません」
 その瞬間、大村署長はホワイトボードを全力で叩きました。無音であった会議室に重たい静寂が広がりましたが、それを切り裂いた人物もまた大村署長でした。
「何か、貴様!中野が白とでも言うつもりか!」
「いえ。ただ、今回の連続詐欺に関しては別の角度からの検討も必要かと」
「それは何か?俺の見立てが外れているとでも言うつもりか!」
「決してそのような意味ではありません。ただ、中野は非常に狡猾な男です。引っ張れる奴を叩き、中野との接点を洗うことも検討すべきかと」
「検討すべき?貴様、二〇人も引き連れておきながら、検討する人員が足りないのというのか!それはお前のマネージメントの問題だろ」
「…はい。その通りです」
 大村署長は革靴を鳴らしながら父に近づき、至近距離で睨みを利かせました。
「貴様は官僚候補とか言われながら、結局成果もあげられなかった落ちこぼれだ。俺の目の内が黒い内は、この件が解決しない限り昇進はないと思っておけ」
 重い一言を述べて大村署長は会議室を出て行こうとしました。扉を閉める直前、「いいか。奴を今月中にあげろ!」と叫び、その扉を勢いよく閉めたのです。

 

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