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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

巣鴨振り込め詐欺殺人事件、その3

   

「なぜ親が殺されたのに、事件に顔を突っ込むのか」

 親友の抱く疑問に、恵理は答えられない。

 自宅で両親を殺害された恵理のショックは大きかったが、父親の同僚・神野に支えられ、恵理は立ち上がる。

 再び、中野を調査する中で掴んだ真実。

 それでも雲を掴もうとするように手が届かない中野の悪事。

 ・・・そして、恵理と中野、二人の運命が交差する。

 

 長い間、深いまどろみの中にいたようです。眠気と気だるさと、ドロドロとした頭痛が私を支配し続けていました。寝ているのか、起きているのか…。一つ覚えていることは、ここがホテルの一室だということ。そこそこ良い部屋でベッドはふかふか、お風呂はひろびろ、アメニティーは素敵。ですが何日も過ごしているのに、何一つ楽しむことができてません。寝ては夢をみて、水を飲んでは夢をみて、トイレにいっては夢をみて、コンビニに行ってはまた夢を見る。平和で、何もなくて、誰もいなくて、何の楽しみもない日々。カーテンは締め切り、電気をつけていない部屋には光すらもない。実に退屈で、冗長な時間ばかりが過ぎていき、いくつもの記憶の断片が私の脳裏に浮かびました。その中の一つが…、父と過ごした最後の朝、神野さんと帰ってきた翌朝の光景です。
 温かな朝の光が徹夜明けの目に痛い。私は中野に関する全ての書類に目を通し、その悪事を頭に叩き込みました。私はクラクラしながら、眠気覚ましのコーヒーをいれます。朝に一人でコーヒーをいれるという作業。この時ほど心が落ち着く時は他にありません。穏やかな気持ちに浸っていたところ、母があくびをしながら現れました。
「おはよう…。何あんた、あんたちゃんと寝たの?」
 私は「勉強だから」と言って誤魔化します。母は「ふうん」と勘繰るそぶりをみせたが、たいして気には留めませんでした。
「ま、頑張るのは良いことだけど、講義中に寝ないようにしなさいよ」
「わかってるわよ。お父さんは?」
「もう起きてる」
 するとスーツ姿の父もリビングに現れたのです。
「…おはよう」
 前日の失態のせいか、非常に気まずそうな表情をしていました。
「お父さん、さすがに胸ポケットに部屋番号を書いて入れておくなんて。それはないわ」
「…さっきお母さんにきつく怒られた。もう言わないでくれ」
 私は思わずため息をついてしまいます。
「他には安易なことしていないでしょうね。例えば携帯の暗証番号を部屋の番号にしているとか」
 それは暗に安直なパソコンの暗証番号について警鐘をならしたつもりだったのですが、父の反応は予想外のものでした。
「何で知っているんだ!まさか見たのか?」
 …あり得ません。そんな私の落胆をよそに、母が父にお得意の喧嘩を売りだしました。
「なに。なんで慌ててるの。見られたらまずいものかしら」
「違う!捜査情報のことだ」
 反抗しても母を喜ばせるだけだというのに、父は真面目に受け答えをしてしまいます。案の定、母は獲物を狙う目つきになり、追いかけまわしました。
「なにが違うの?私は一言も浮気とか言っていないわよ?」
「後で見せるから、変な疑いを持つな!」
「後?今じゃダメな理由は?」
「もう仕事だからだ!」
 そうして父は逃げるようにリビングから出て行きました。と思ったら戻ってきて、顔だけを出して心配そうに私に話かけきます。

 

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