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ノンジャンル

星座アラベスク<5>しし座

   

 しし座の人は、華やかな雰囲気と威厳を持っている。
 シンボル・カラーは金色であり、これは、生命、希望を表す色である。

 

 クレオパトラの侍女のチャーミアンは、女王の部屋へ向かっていた。
 手には葭で編んだ籠を持っている。
 どうしても、籠を身体から離すように手が前に出る。
 さすがに、気持ちのいい持ち物ではないのだ。
 籠の中の生き物が動くたびに、籠が振動する――。
 侍女のチャーミアンは、廊下を進んだ。
 松明で照らされた廊下には、もう、誰もいない――。。
 この宮殿に残っているのは、クレオパトラとチャーミアンだけなのである。
 侍女のチャーミアンは、女王の部屋の絹の幕を開いた。
「女王様、お持ちいたしました」
 磨き上げた銀製の鏡で化粧を直していたクレオパトラは、チャーミアンを振り返った。
「ありがとう。枕の脇においてね」
「かしこまりました」
 侍女のチャーミアンは、籠を置くと、聞いた。
「他にご用は、ございませんか」
「もういいわ」
「では、あちらで控えておりますから、ご用がありましたならば、お呼び下さい」
「もういい、と言ったでしょ」
「……」
「あなたは、もう、十分に尽くしてくれたわ。さ、お逃げなさい」
「でも……」
「ローマ軍が来るのは明日の朝、逃げるのは今夜のうちよ」
「女王様……」
「あなた、護衛長のソテルを好きだったんでしょう」
「ご存じだったのですか?」
「そのくらい知らなければ、女王は勤まらないわ。あなたは、その恋を棄てて私に仕えてくれた。礼を言います」
「そんな……、礼などと……」
「そのソテルも死んだ……。男は、みんな、死んでしまった……」
 侍女のチャーミアンの眼から、涙が溢れた。
 クレオパトラは、涙を見せない。
 さすが、と言うべきであろう。
 クレオパトラは、女王の威厳を持って、声を出した。
「最後の命令です。お逃げなさい」
「……」
「故郷へ帰り、やさしい若者と結婚するのです。そして、子供を沢山作りなさい。女の幸せを掴むのよ」
「で、でも……」
「あなた、女王の命令に逆らうつもり」
 チャーミアンは、涙を拭うと、侍女に戻った。
 侍女としての完璧な作法で、答える。
「ご命令のままに」
 典雅に礼をして、部屋を出た。

 

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