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SF・ファンタジー・ホラー

ウパーディセーサ〈二十六〉

   2016年4月21日  

 どうも人手が足りないんだ。バイトが十五人程くるはずだったんだが、五人しか来ていない。しかも昨日確認した筈なんだが、今日名簿を見ると消えているんだ。困ったな。

 

 
 いつの間にか夏は別れも言わずに去っていった。秋の虫達が互いの音色を競い合っている。秋の匂いが青葉を撫で、太陽は早くに寝支度を始めた。幾度も幾度も季節は廻り、秋の新鮮さなど、どうでも良かった。
 僕は高校を出てすぐに就職した。派遣会社の正社員として。楽な仕事と高を括っていたが、力仕事が中心のハードな毎日だ。ミュージシャンのライブ会場の設営、町の盆踊りのテント張り。サーカス団の館作りなんて、終わりが見えない。上司は、筋肉いっぱいの男達。テントの脚を落としてしまった時なんて、すごい剣幕で怒鳴られる。でも生きて行く為に、休まずに働き続けた。
 ある日、仕事帰りにコンビニに立ち寄り、串に刺さった唐揚げと、ビールを買って公園で池を見つめていた。ボートに乗ってはしゃぎ合うカップル達が、夕日を背中に黒いシルエットだけが見える。いつもならアパートに直帰し、シャワーを浴びてすぐにベッドに入っていた。でも今日は珍しく仕事が早く終わり、なんだかいつもと違う事をしたくなったのだ。
 綺麗だな……
 初めてそう思ったのかもしれない。紅く染まった空に、名前も知らない鳥達が群れをなし、優優と風に乗って遊んでいる。仕事の疲れが癒える気がした。しなっと揚がった唐揚げは、微かに香る醤油が何とも贅沢に感じる。グッとビールを流し込んだ。炭酸に喉を痺れさせ、それでも我慢してもう一口、と呑んだ。フッとため息の中に淋しさを感じた。
 僕には両親がいない。ただ、何故か普通に学校へ通えた。高校なんて、成績が悪く留年した。なのに学費を自分で稼いだ覚えがない。それはいつも僕の頭の片隅に、灰色の墨の様にこびり付いている。家も借りた覚えはない。小汚いアパートだが、どこか温もりを感じる。僕にとって〝家〟なのだ。小さなリビングは、キッチンとの境は無く、その前に食卓が置いてある。お茶碗は四つ。お箸も四膳、全てが四つ揃っている。僕の寝室には、何故か二段ベッドがあり、気が付くと必然的に上段のベッドで眠っている。下のベッドには身に覚えが無いが、何か懐かしい気持ちになってしまうぬいぐるみが置いてある。僕は何故か寝る前にそのぬいぐるみを抱きしめる。ふっと浮き上がる香りが、とても切なく、優しい気持ちに身を任せ今日も眠る。

「弘平君! こっちで砂山を作ろうよ。ハイっ、僕のスコップを貸してあげる」
「ありがとう! 勇作君は優しいね。裕司君はいつも僕のシャベルを横取りするんだ」
「でも泣かない弘平君は凄いよ。あっ! 綺麗なお城だ。弘平君は粘土も、砂山も本当に上手だね」
「勇作君がスコップを貸してくれるからだよ。このお城の周りにお池を作ろうよ」
「うん! それって凄いよ! 僕、水を汲んでくるね。あっ、弘平君のお母さんが迎えに来てるよ」
「ほんとだ、勇作君。続きは明日作ろうよ!」
「そうだね。僕のお母さんはお仕事だから、まだまだ来ないと思う。僕も弘平君みたいなお城を練習しておくよ! また明日ね」

 

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