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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

鬼神楽 2

   

神楽へのからかいは、からかいで済まされる限度を逸脱しはじめる。
教師は知っていて見ないふり、ほかの父兄も同じ。町に貢献した一族の子孫に逆らって生きてはいけないことを知っているから。飛び降りを迫られた神楽は…

 

「そんなことはないよ、神楽。答えがわからないのだから、手を挙げないのが正しい判断だからね」
 うちの子に限ってとはよく言ったものだが、神楽に限ってあの程度の問題の答えがわからないはずがなかった。
 神楽自身も、わからないから手を挙げなかったわけではない。
 ではなぜか……それは自分でもわからなかった。
 ただ言えることは、父兄の席に神楽の両親が座った時、だれかがこう言ったのだ、
「どこん家のじじばばだよ。今日はおとうさんとおかあさんが来る日だぜ」
 ――と。
 ほかにも白髪交じりの人はいたのに、なぜ神楽の両親が席についた瞬間だったのだろう?
 神楽はずっと考えていた。
 手を挙げて指されて正解してしまえば、また何かいわれるのではないか。
 それはこの町で暮らしている以上、犯してはいけないことなのではないか。
 大好きな両親を困らせるようなことだけはしたくない。
 ああそうだ、わからないフリをして手を挙げなければいい。
 正解をして褒められたい人のためにそうしよう。
 それなのに、あの新任教師が――
 胸の中にどす黒い何かが生まれだしたのは、この時が初めてだった。

 母の問いかけに神楽は小さく頷いた。
「やっぱり。そうよね。だって、先生にさされてわからないって言ったものね。神楽は間違ったことをしていないのだから、堂々としていればいいのよ。それにね、忌み子なんて、そんな言葉の意味を知る必要なんてない。だって、神楽を一番愛しているのは、とうさんとかあさんなんだから」
 神楽は思った、本当だけど嘘だ――と。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


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