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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

巣鴨振り込め殺人事件、その4

   

「もう誰も、信用できない・・・」

詐欺の容疑者・中野をつけてたどり着いた場所は、彼が経営する会社だった。

古びたビルに入っていくと、中野の妹・千佳に待ち伏せされ、逆に追われる立場となる。

その窮地を救ったのが刑事の神野だったが・・・。

囮にされているとは気づかず、神野とデートをしていた恵理は、中野と直接顔を合わせることとなった。

陰謀がうごめく中、恵理は真実にたどり着けるのか。

 

 十三時四十七分、一度お店に戻った中野がようやく出てきました。中野は巣鴨駅の方へ歩いていきます。七時間働いて、日の高い内に家へ帰る姿を見るとお気楽なフリーターにしか見えません。しかも彼は池袋にある高級マンションに住んでいるというのですから腹が立ちます。ただ、彼が向かう先は自宅ではないようです。池袋に行くためには山手線に乗らないとなりませんが、彼は巣鴨駅を素通りしました。そしてそのまま、川越街道を後楽園方向に進んでいます。ちょうど私が初めて中野を見た、ドラマ的救出劇が繰り広げられた場所です。このあたりは雑居ビルが立ち並んでいます。メジャーなカレー屋や全国区のコンビニ、ハンバーガーショップにラーメン屋など、ひとまず昼食に困ることはないでしょう。
 このあたりも商店街ほどではありませんが、ここも人通りは多い場所。高齢者や主婦、サラリーマンに学生。年齢層に偏りはなく、その分歩道事情はカオスです。中野は蛇行運転をする老人の自転車を除け、超音波を発する小学生に鼓膜を揺さぶられ、戦車のような主婦の改造自転車にヒジをぶつけ、老人が戯れに投げた煎餅に群がる鳩をよけながら歩き続けています。彼も犯罪者の一人なのですからてっきりいちゃもんをつけたり、医療費の高額請求をしたり、子供を蹴飛ばしたりしていると思っていましたが、中野は涼しい顔で足を進めるのです。ヤクザはけちな仕事をしないと言いますが、彼もいっぱしのヤクザを気取っているのでしょうか。中野は歩いている途中で電話をかけました。十メートルは離れていますので何をしゃべっているのかは検討もつきません。ですが、二言三言話して電話を切りました。きっと良からぬ電話だったのでしょう。
 中野は大通りから一つ角を曲がったすぐの、古い雑居ビルに入って行きました。やっぱり、ここに来たか、という思いがあります。父の資料でこのあたりに中野のアジトがあることは知っていました。
《有限会社ナカノ・ソリューション》
 中野仁志が代表を務める、従業員二名のいわゆる「名簿業者」です。今のところ犯罪組織との関わりはないとされていますが、業務内容自体がグレーの要注意な会社であることに違いありません。しかも会社の売り上げは二千万ほど。ブラックな企業にしては低い売り上げと言わざるをえません。典型的な犯罪の隠れ蓑になっている会社概要です。その説が事実であれば、なぜ会社の一社長がコンビニで働いているのかという疑問も解決します。きっと彼にとってコンビニは、個人情報を手にするための情報基地という位置づけなのです。今やコンビニはありとあらゆる個人情報を入手できる場所。宅急便の情報で住所と電話番号が分かるし、公共料金や通販の払込票で生活ぶりも予測することは可能でしょう。つまり、コンビニで働くことでお客の人となりを知ることができると言うことです。あえてコンビニでバイトをする探偵もいるかもしれませんね。そうして集めた情報が「ナカノソリューションズ」に蓄積されているに違いありません。なぜなら中野の入っていったビルも、いかにもガラの悪い人が出てきそうなんですから。そう考えるとここから先へ足を踏み出すのが怖くなってきました。

 

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