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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

鬼神楽 3

   

弘光は16年前を振り返る。あの日の晩、加苅とのゲームは至ってシンプルなものだった。が、社会人がムキになってやるようなものでもない。気に入ったホステスを口説いてお持ち帰りをすればいいのだが、弘光が選んだ女性は年増で…

 

 
 16年前、休学と復学した際、時間配分を掴めずに日数が足りず、結果、留年はしなかったが卒業の時期が少し遅れてしまった。
 もうひとりの挑戦者は復学後、うまく自分のペースを保ち、梅が咲く中、大学を出てそのまま留学への道を選択、同時に会社は海外にある支店へと移動になっていた。
 異母兄弟が無事大学を卒業できたと知ったとの理由と、少し日本に用があるとの理由も追加して、日本への出張という名目で帰国した。
 時期的に、向こうの大学は九月からで、それまでの半年は仕事と語学を学ぶことに集中していると、充実している素振りを醸し出していたのをよく覚えている。
 ひとり出遅れた感があり、話もろくに頭の中に入ってこない。
 そんな時だった、異母兄弟からゲームをしないかと話題を切り替えてきたのは。
「ゲームだと?」
「そう、ゲーム。ここは飲み屋だぞ? 軽い気持ちで楽しまなくてどうする。だいたい、おまえは四六時中しかめっ面しすぎ。いいことが怖がって逃げていく。留学もしない、院にもいかず仕事一本に絞ったんだろう? だったらさ、もっと世渡り上手でないと、足元救われるぞ? というわけで、息抜きもかけてゲームをしよう。内容は簡単だ。ここは女性が同席してくれる飲み屋だ。待機している女性もよりどりみどり。好みの女をそれぞれ指名して、口説き落とす。早く口説けた方が勝ちで、負けた方がここの飲み代と、女の子とのアフター代も持つっていうのはどうだ?」
 言い出したこの異母兄弟は、あの男の血を半分受けついでいるとは思えないほど、端正な顔で、口も達者、物覚えも早く、ヒヤリングに関しては誰よりも早く身につけていた。
 孕ませた女が相当の美女で秀才だったに違いない。
 利口な女ほど引き際を心得ているものだ。
 あの屋敷に本妻と住むなど正気の沙汰とは思えない。
 となれば、自分の母親もこの異母兄弟の母親も、引き際をわきまえたいい女ということになる。
 ならば、一度くらい、このくだらないゲームに付き合ってやってもいいだろう。
 仕事一本に絞った今、初任給もかなりいい額を貰っている。
 ここの飲み代とそのあとの余興代くらい、はした金の範囲で済むだろう。
「わかった、受けよう」
「おっ、いいね。弘光」
「調子に乗るな、加苅」
 待機スペースで指名を待つ女と、リストの顔写真を見比べながら、真剣な顔で物色をする加苅とは対照的に、弘光はこんな条件に合う女をひとり寄越してくれとボーイに依頼をした。
「背は150センチ前後、顔は古風、細身で和服の似合いそうなホステスですね、承知いたしました」
 復唱して去ったボーイが連れてきたホステスは、かなりの年増であったが、気さくで相手の心中を察し、この業界のいろはを知り尽くした、そんな女だった。
 対し、加苅が指名をしたのは、どうみても未成年にしか見えない童顔の、それもややぽっちゃりとした、お世辞にも綺麗と言うには遠い女。
 だが愛嬌のある笑みと聞き上手なのだろう、加苅のくだらない話にも親身に耳を傾けていた。
 口説くのは延長をお願いしてからの1時間と決め、そろそろお時間ですがと言いに来たボーイに、延長1時間でと加苅が告げる、それがスタート合図となり、まっさきに加苅が指名したホステスを口説き始めた。
 他愛のない話から一転、この後アフターどう? 昼間は何をしているの? もう少し近い関係になりたいななどなど。
 女を口説くとはああいう言葉の応酬なのかと、弘光はただただ呆気にとられるばかり。
 そんな弘光に、指名されたホステスが囁く。
「あらあら、お連れの方は彼女を本気で口説いてますのね。背に腹はかえられないくらいの気迫を感じますわ。お兄さんと、何か賭けでもしたのかしら?」
 身体が先に反応してしまう。
 わずかにグラスを持つ手の力が抜け、落としそうになり慌ててコースターの上に置いた。
「クスッ、あなた、嘘のつけない人なのね。それでやっていけるのかしら?」
「どういうことです?」
「お名刺、いただいたでしょう? あなたに自覚はないのでしょうが、あなたの務めている会社はかなり有名でしてよ? この界隈のどこかに、現会長さんご贔屓の高級クラブがあるとかないとか。まあ、そういうことなの。だからね、若い子は食らいついてくるわよ。ほら、あの子も落ちたみたい」
 言われて加苅を見れば、口説かれた女は顔を赤らめ、男の肩に身を委ねていた。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


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